仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

2015年04月


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浅草の仮設芝居小屋、平成中村座。
連日大盛況です。
当日券を求めて何時間も前から並ぶ人も多いそうです。

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この小さな芝居小屋の臨場感を
もっとも感じられるのが、夜の部最後の演目
「幡随院長兵衛」

劇中劇のさ中に、花道に居座る客が出て、
劇が中断しちゃうくらいの騒ぎになります。
すると、客席の間を縫って長兵衛参上!
親分っぷりが最高の中村橋之助です。
敵役(坂東彌十郎)も二階に現れるなど、
ここはどこ? 江戸? っていうくらい
お芝居の世界に入り込んでしまうこと請け合い。

実は私、
「幡随院長兵衛」ってどちらかというと苦手な演目で、
ここ数年、敢えて観ないようにしていました。
山の手やくざと下町やくざの抗争みたいな話で、
最後は
山の手やくざの親分(水野十郎左衛門)が、
下町やくざの親分(幡随院長兵衛)を自分の屋敷に招き、
アウェイの敵を亡き者にしようとする。
それをわかっていて長兵衛は一人乗り込むが、
長兵衛が剣術に長けていることを知っている水野は、
わざと着物に酒をこぼして風呂に入れと言って、
丸腰のところを大勢でよってたかって殺します。

そこの場面に来ると、
私は往年の東映のやくざ映画を思い出し、
殺す方もひどいけれど、
殺されるとわかって乗り込む方も乗り込む方で、
結局やくざ同士が血で血を洗うだけよね、と
とってもやりきれなくなるのでした。

でも今回は違いました。
長兵衛とその家族に思いっきり感情移入。

自分はそんなつもりなかったけれど、
街中で次々と若い者同士が衝突してしまう日々に
「いつか自分がすべてを背負うことを覚悟しなくては」と
思っていた長兵衛の心のうち。
周りから一目置かれる存在になった自分が
最後の最後に「怖くて逃げた」なんて思われたら、
自分の配下の者たちがこれから暮らしていけない、と
考えに考えて向かうところ。
どうせ畳の上で死ねるはずないのなら、
一介の町奴にとって、
八千石の旗本とタイマン張って死ねるなら本望だ、と考えるところ。
そんな「親分」としての一面とは対照的に、
死を覚悟して水野邸に赴く前に、
幼い息子に「こんな商売するんじゃないぞ」と言い置くところなど、
子どもや妻への愛情が滲み出るような橋之助の演技が絶品です。
ぐーーーっと心を持っていかれました。

中村橋之助の長兵衛があまりにかっこよかったので、
普段はあまり買わない舞台写真を買ってしまいました。

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4/10(金)、講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」の第6シリーズが始まりました。
16回目となる4月に取り上げたのは、
近松門左衛門の「心中天網島」です。

昨日も書きましたが、
今月歌舞伎座の中村鴈治郎襲名披露公演夜の部で上演されている
「河庄(かわしょう)」は、
その上の巻、発端の部分にあたります。

今月の舞台で
今までと違った治兵衛を感じた私は、
4月10日の講座での講義内容を一部変更し、

「心中天網島」を
上の巻「河庄」=治兵衛の物語
中の巻「紙屋内」=おさんの物語
下の巻「道行名残の橋づくし」=小春の物語

と位置付けて、3人それぞれの心理に新たな視点で迫りました。

また、
「河庄」と同じく玩辞楼(がんじろう)十二曲(中村鴈治郎の得意演目)に名を連ねている
「天網島時雨炬燵(てんのあみじま・しぐれのこたつ)」にも言及しました。
これは近松の「心中天網島」初演から数えて約半世紀後に、
近松半二が「心中紙屋治兵衛」として改作した際、
「紙屋内」のラストシーンを大幅に変更してできあがったもので、
「河庄」と同じく、単体で(見取り狂言)上演されます。

原作である近松門左衛門の「心中天網島」と
改作された近松半二の「心中紙屋治兵衛」との比較もして、
「冥途の飛脚」や「女殺油地獄」なども含め、
近松の名作は時代を200年も先取りしていたことを確信しました。

いや~、
近松は本当にすごいです。
近松の原作通りに上演し続けていたら、
心中は減ったというのが私の持論。
リアルです。容赦ないです。
 

近松門左衛門の「心中天網島」

この発端となる部分が、
歌舞伎座の中村鴈治郎襲名披露公演夜の部で上演されている
「河庄(かわしょう)」
です。

紙屋として大坂天満に店を構える治兵衛は、
妻子がありながら遊女・小春にいれあげて
二人は「もう心中するしかないね」と約束を交わしている。
その後なかなか会えずにいたけれど、
ようやく小春の出ている店にたどり着いた治兵衛。
しかし、そこで観たものは、最愛の女がほかの客に、
自分との心中が本意ではないことを告白しているところだった!

信じていた女に騙されたと思い込んだ男の
破れかぶれで浴びせる罵詈雑言。
一人前の男が見せる、大醜態です。

最初観たときは、治兵衛さんのあまりのダメンズぶりに辟易、
「いじめ」を目撃するかのごとき居心地の悪さばかりで
ちっとも物語にのめりこめなかった。

だって、
「おまえ、オレと死ぬって約束したじゃないか!」と怒り出し、
自分の愛人を罵倒する姿が醜くて醜くて。
女相手に声荒げるは、殴りかかろうとするは、でちょっとしたDVだし。
そうかと思えば、これだけコケにした女に対し、
手のひら返したみたいに猫なで声を出すのも、ほんっと気色悪かった。

自分は妻子もち店もち、
相手は自分の身に何の保障もない一介の遊女。
弱い者いじめにも程がある!
何考えてんだろう。
こういうのを女の腐ったのみたいだっていうんだ、
自分さえ気持ちよければそれでいいのか!
ま、そうじゃなきゃ遊女になんか手をつけないか・・・とか、
はっきり言って、後味悪すぎ。

でも「心中天網島」って近松門左衛門の最高傑作と言われてる。

ほんとにこれ、絶対「最高傑作」なの??

この疑問から原作を読み直したら、本当に面白かった!
「河庄」だけだから意味がわからいんだ、
全部読めば、こんな深い話はない!
そう確信したのでありました。

ですから、
歌舞伎ビギナーズの皆さんには
正直「河庄」はハードル高いかもしれません。
でも、
「わからなくても1回観た」からこそ、
次に新しい発見を得られるというのも歌舞伎の面白さ。

何を隠そうこの私、
あれほど苦手意識のあった「河庄」、
「単なる発端にすぎない」と思っていた「河庄」だったのに、
今回、
新がんじろはんの「河庄」を見たら、今までと見方が変わったのです。

単なるDV男と、恋愛依存症の女、みたいに思い込んでいましたが、
罵倒する男も、
嘘をつく女も、
溢れんばかりの愛のかたちであることに気づかされたのです。

この舞台の「すべて」を握ると言われている出の場面
「魂抜けてとぼとぼうかうか」の意味もよくわかったし、
小春を演じた中村芝雀もかわいらしく、
耐える演技の中に、体中から治兵衛への愛が溢れていた。

先日インタビューさせていただいたとき、
「お客様に共感していただける舞台にしたい」とおっしゃっていた鴈治郎丈、
私を感情移入させたんだから、大成功ですね!

歌舞伎座夜の部に行ってまいりました。
今回、珍しく両花道がかかっています。
(常設の西側花道のほかに、東にも花道が仮設され、
 二本の花道となっています)

その花道にずらっと役者が並ぶのが壮観なのが、
「成駒家歌舞伎賑(なりこまや・かぶきのにぎわい)」。
ただの口上ではありません。
江戸時代の芝居小屋の入り口が舞台で、
これから鴈治郎襲名が行われる直前という
芝居前(しばやまえ)仕立てになっています。

そのお芝居の楽しいこと楽しいこと。
鴈治郎丈が鴈治郎役であるのはもちろん、
現代の大幹部たちが座元とか大夫元とか芝居茶屋亭主とか奉行とか、
おえらいさんに扮するのもご一興。

両花道にずらっと並んだ男伊達、女伊達が
役者本人の名前や屋号を織り込んでの名調子。
これまたやんややんやです。

というわけで、
両花道がしっかり見られる座席でご覧になるのがベストですよ~。
(今回は、日頃花道が見切れる西側の席も、
東の花道をしっかり見られるのでいつもよりコスパ高いです!)

引き続き口上。
親子三代のみが連なってできるなんて、すごいですね。
ていうか、全員ここに並べられなかったから「芝居前」があったんですよね。
「芝居前」の賑わいに、
「中村鴈治郎」の名前の大きさを改めて思い知らされます。

花道全部は観られませんが、
この幕のみ一幕見もかなり楽しめますのでおすすめ。
四代目中村鴈治郎襲名の晴れがましさを、
ぜひ堪能してください!

4月2日、
かねてから温めていたチョー初心者向け講座をスタートさせました。
名付けて
「スペインバルで気軽に学ぶ歌舞伎のイロハ」。
渋谷駅から徒歩3分のジャズが流れるスペインバルで
美味しい料理をつまみながら、
少人数で和気あいあいと歌舞伎についてお話します。

仕事帰りでも負担にならない、ゆるい感じで、
でも、みなさんの疑問にはいっぱい答える…。

「松羽目物」の説明に「勧進帳」を例に出したら
「それって何ですか?」とおっしゃるので、
「義経という人」の説明から入ったり。

「誰が何々屋なのか、どうすれば覚えられるんですか?」
「えっ、歌舞伎、1000円で観られるの?」
「ドレスコードは?」などなど、
いろんな質問が飛び交いました。

オペラやミュージカルをよくご覧になる方は、
それと比較しながら理解を深めていったり、
私だけでなく、参加者の皆さんの力で
とても素敵な会になったと思います。ありがとうございました。

帰りに歌舞伎の絵葉書をプレゼント。
とっても喜ばれました。

次回は5月14日です。
詳しくはこちらをどうぞ。







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