百花繚乱、よりどりみどりの東京歌舞伎、
ピカ一の舞台が、
歌舞伎座夜の部トリを飾る市川猿之助の「黒塚」 です。

「黒塚」は奥州の山中で暮らす老女・岩手が高僧に出会い、
人を喰らって生きてきた自分でも来世を望めるのか、と
一瞬の希望に心を輝かせたのもつかの間、
裏切られた思いに怒りを爆発させる舞踊劇で、
「猿翁十種」に数えられる澤瀉屋には大切な演目です。

猿之助の襲名公演でも観ましたし、
そのときも、さすが猿之助の名を継ぐにふさわしい出来と思いましたが、
今思えば、
あれはその片鱗であり、ほんの始まりに過ぎませんでした。

声、形、表情、身体能力、音楽との調和、緩急、
沈黙を支配できる存在感、力強さ、スピード、
憤怒、哀れ、至福、残酷…。
一体どれほどの才能が、彼の小さい身体に詰まっているのか。
私は取り立てて猿之助の大ファンというほどではありませんが、
好みの問題を突き抜けて、
心から感服、惚れ惚れします。

これからも、当代猿之助は長い時間をかけて、
自らの「黒塚」を磨き上げていくことでしょう。

今月の歌舞伎座公演については、こちらをどうぞ。
26日までです。

この名舞台を、
実は1300円で見られるんです!
一幕見といって、
直通エレベーターで4階に上がり、一演目のみ見るという制度。

これについては、
また明日。