仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:矢の根

京都南座で公演中の三月花形歌舞伎に行ってまいりました。

何回かに分けてレビューを掲載いたします。
まずは昼の部冒頭の「矢の根」から。

これは市川團十郎歌舞伎十八番の1つです。
歌舞伎十八番の演目を、
市川團十郎家(=成田屋)以外の役者が演じるときは、
必ず成田屋さんのところに許可を得に行くしきたりとなっています。

「矢の根」は典型的な荒事(あらごと)です。
歌舞伎といえばあれ、という、赤い隈取(筋隈)。
かつらはドレッドヘアの各ドレッドをそれぞれ固めて立たせたような「車鬢(くるまびん)」。
そう、
今「スズキの軽」のCMに市川猿之助が荒事スタイルで出ていますが、
まさにあんな恰好です。

ビジュアルをイメージしていただいたところで、
もう一つ、
主人公の「曽我五郎」は、あの作品にもこの作品にも出てくる有名人!
富士の裾野で仇討をした曽我兄弟の弟のほうで、
喧嘩っ早く、乱暴、でも早くに親を亡くした悲しみがあって、
やんちゃで子供じみているが、
一方でまっすぐなところもあり、憎めないというのがキャラクターです。
スサノオ的、といえるかもしれません。

それにひきかえ兄の十郎は、
女方が務めることの多い、分別はあるけれどちょっとなよっとした男性。
あまり目立たないけど、世の中や分別をよく理解して、
結局次男の粗相をあやまったり尻拭いしたりする。
「お兄ちゃんはいつも優しいね」みたいな役回りです。
長男が優等生タイプ、次男は自由奔放、いたずらっ子だけど人気者、というのは、
いまも「あるある」の設定で、共感する人、多いのではないでしょうか。

ちょっと乱暴なたとえですが、
刑事ドラマ「相棒」の右京さん(水谷豊)が十郎で、
亀山さん(寺脇康文)が五郎、みたいな感じ。

そんなイメージで、
「矢の根」そのもののストーリーを見てみましょう。

ストーリーといっても、荒事の典型なので、筋は簡単です。

まず「曽我兄弟」が出る話は、必ずどこかで「敵討ち」がからみます。
これ、お約束。その上で…。

「矢の根」はお正月にちなんだお話です。

五郎はお年賀訪問を受け、「七福神」の絵をもらいます。
いい初夢を見ようと縁起のよいその絵を枕の下に敷いて寝ると、
兄の十郎が夢枕に立ち、
「敵の工藤佑経の館に捕えられているから救いにきて」と言って消えます。
目覚めた五郎、兄の一大事!とばかりに家を出ようとすると、
そこに大根を積んだ馬が通る。

亀山刑事が通りすがりの一般人のバイクをつかまえ、
それに乗って、逃走中の犯人を追う、みたいな感じで、
五郎は馬の背の大根をバサッと切って落とし、自分が乗ってしまいます。
馬士はもちろん大迷惑ですが、
五郎は「乱暴者だけど憎めない」キャラだから、観客も
「かーめーやーまー!」もとい「あーあ、ゴローちゃん、またー」と、
ここは眉をひそめず笑って楽しむところ。
五郎は馬に乗って花道を去っていきます。

この「馬に乗って去っていく」ところ、歌昇が本当に立派で、
きびきびとしてスピーディー。
馬の脚を演じた2人は大変だったと思いますが、
3人のチームワークがよく、本物のような動きでした。

荒事は無邪気な子どもの心で演じよ、と言います。
子ども=「無邪気」=邪気がない=神聖な存在で、
江戸の守り神としての成田屋が、「邪気を払う」のです。
乱暴なことが、ここでは逆に、「正義の味方」としての力になります。

歌昇の五郎は筋隈美しく、声は轟き演技が大きく
そうした「無邪気さ」と「恐ろしさ」を併せ持って
素晴らしかったと思います。

思わず、團十郎さんの舞台を思い出しました。

今回南座で一番の出来だと思います。

公演の詳細はこちらからどうぞ。

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