仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

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まだ菊之助さんの知盛のレビューを書いていませんが、
取り急ぎ、8月の歌舞伎のご紹介を先にいたします。

歌舞伎座では、納涼歌舞伎が三部制で上演されます。

第一部は「おちくぼ物語」と「棒しばり」。
レジェンドになった故勘三郎丈と故三津五郎丈の「棒しばり」に
勘三郎の息子・勘九郎と、三津五郎の息子・巳之助が
二人して挑みます。
「おちくぼ物語」は和製シンデレラのようなお話。
七之助がシンデレラです。

第二部は「ひらかな盛衰記~逆櫓」と「京人形」。
「京人形」は、七之助の京人形に、勘九郎の左甚五郎。
思い描いただけで絵になる二人です。期待してます。
「逆櫓」は源平時代に取材した、
義経に討たれた木曽義仲ゆかりの者たちの物語で、
前半は「実は」の応酬、後半は立ち廻りが見どころです。
もう一つ、サブタイトルにもある「逆櫓(さかろ)」という技術を
習いに来る船頭3人の場面も有名。
国生、宣生、鶴松が、息を合わせてどこまで「櫓」を扱えるか、
それを見るのも楽しみの一つです。

第三部は「芋掘り長者」と「祇園恋づくし」。
「芋掘り長者」は、三津五郎が復活させた作品で、
踊りのヘタな藤五郎の代わりにお面をかぶって踊りを披露する治六郎が、
「仮面をとれ」と言われてしまう喜劇で、治六郎に巳之助が扮します。
「祇園恋づくし」は、さきごろ94歳で亡くなった小山三さんが
「今度これをやるといいわよ」とおっしゃっていたという演目。
祇園祭を背景に繰り広げられる、明るい恋物語です。

いつもと違って、11時、14時半、18時の開演。
特に第三部はお仕事帰りに予定できる時間ですね。

大阪では新歌舞伎座で「新・水滸伝」
市川右近を中心とした21世紀歌舞伎組が、
元祖「スーパー歌舞伎」を繰り広げます。
斜めの宙乗りあり。

市川海老蔵の六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」
東京・六本木の初演を経て、
8月前半は名古屋中日劇場、後半は大坂オリックス劇場で上演されます。

夏は自主公演も多いです。
そのことは、また明日。

今月の歌舞伎座は、
昼の部が「南総里見八犬伝」と「与話情浮名横櫛」そして
「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」。

「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」は
いわゆる「お富さん」の話。
〽粋な黒塀見越しの松に/あだな姿の洗い髪/
 死んだはずだよお富さん~・・・の、
お富さんを坂東玉三郎が、
「御新造さんへ、お富さんへ、いやさお富!久しぶりだ~な~」の
与三郎を市川海老蔵が務めます。

「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」は、
市川猿之助の六変化で見どころたっぷり。
こちらも見逃せません。

・・・ということで、
なんと3日の初日を待たずにチケットが完売。
人気の玉三郎、海老蔵、猿之助の揃い踏みなので、むべなるかな。
今後、団体キャンセルなどによる戻りチケットを待つか、
幕見に並ぶなどしないと観劇は難しいかもしれません。

夜の部も完売の日が多いですが、
こちらはまだ大丈夫。
「一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)」の「熊谷陣屋」と
通し狂言「怪談牡丹燈籠(かいだんぼたんどうろう)」。
こちらも見逃せません。

「熊谷陣屋」では海老蔵が
左團次、芝雀、魁春、梅玉などのベテラン勢を向こうにまわし、
熊谷直実を務めます。

「牡丹燈籠」は、
鉄板お峰・玉三郎の胸を借りて
中車が伴蔵に挑戦。
陰影深い人間を演じたらピカ一の俳優・香川照之が、
歌舞伎役者・市川中車としてどこまで伴蔵の心の闇に迫れるか、
近年めきめきと歌舞伎の水になじんできた中車の伴蔵に期待です。
猿之助がどんな圓朝を演じるか、それも興味津々。

詳しい配役やあらすじなどはこちらをどうぞ。

今月は「新薄雪物語」が、昼夜に分けて通しで上演されています。
今回、この公演で何がすごいって、
尾上菊五郎、松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門、と
それぞれ音羽屋、高麗屋、播磨屋、松嶋屋と
それぞれのトップが同じ舞台で共演することです。

「それってそんなにすごいことなの?」…と思われるかもしれません。

歌舞伎公演というのは、
基本的に座頭(ざがしら)が主役と演出を兼ねる興行ですので、
音羽屋であれば菊五郎が主役、
高麗屋であれば幸四郎が主役、・・・というふうにして、
一門傘下の役者が脇を固めるというのが通常の興行となります。

もちろん、そこにほかの一門の人も出演しますが、
それは「ゲスト出演」的な位置づけになります。

これに対し、
たくさんの「座頭」級の人が一堂に会する興行を
「顔見世(かおみせ)」といいます。
「オールスターキャスト」という意味ですね。

それぞれが常に主役を張る役者で、一門を背負っての登場ですから、
役を振るのは大変。
そのため「顔見世興行」と銘打っても、
演目ごとにそれぞれが主役を務め
一つの演目で一緒に登場することを避けることさえあります。

だから今回昼の「詮議」のように、
菊五郎、幸四郎、仁左衛門が同じ演目の同じ場面に登場して、
それぞれが持ち味と実力を発揮し、
場のエネルギーを高め合っていくのを見られるのは、
本当にうれしい限りです。

地位もあり、賢明な二人の武士が、
政敵によって無実の罪を着せられ、
謀反の疑いをかけられたとわかったその瞬間に
「これはもう逃げられない!」と覚悟する。

幸崎伊賀守(幸四郎)と園部兵衛(仁左衛門)の
その瞬間の表情をぜひ見逃さないでください。

「いいがかり」のもとを与えてしまったそれぞれの娘と息子が、
「ちがう、それはちがう!」と必死で無実を言い立てて、
騒いだり嘆いたりと取り乱すのと対照的です。

へびににらまれたカエルは、のみこまれるだけ。

二人は知っているのです。
長年の務めの中で、
政局がらみの陰謀で追い落とされた人々を
いくらでも見てきたはずですから。
きっとこれまで、ちょっとした軽口を言質にとられぬよう、
細心の注意をはかって生き延びてきたことでしょう。
そうやって、
欲望と陰謀がうずまく政治の世界で
自らの信念をできるだけ曲げぬよう努めてきたのに・・・。

二人はそれぞれ、ほぼ同時に、
「ああ!」とすべてを見通すのでした。

そして、無言のうちに頭の中はフル回転。
こうなってしまった以上、
自分たちはこの後どうすればよいか、
子どもは、妻は、家は、そして相手は???

分別あり、良心あり、思いやりあり、信念あり。
この二人が何を考え、いかに身を処し、愛する者をいかに守るのか、
それが、「広間」「合腹」へと続き、明らかになるのです。

また、
この両家に対し裁断を下す立場になった葛城民部が菊五郎。
民部もまた、
誰が陰謀の主かに気づきながらも、
証拠のないことを言いたてることがいかに危険かを熟知していますから、
今自分が「裁断」できる立場であることを最大に生かし、
無実の両家にとって今考えられるもっともよい方法を考え出します。
「公平」な態度を崩さない中で、
「威厳」をもって悪に引きずられぬよう場を制する。
民部の包容力が輝いていました。

世の裁判官は、この場面を10回くらい見て、
正義とは何か、自分の役割は何か、必死で考えてほしいと思います。

この場面、
ただ一人「悪役」として出てくるのが秋月大学役の坂東彦三郎。
大きいです。
大学は「悪の親分」である秋月大膳の息子なので、
最後は民部に言い負けてしまう程度の悪ではあるのですが、
それにしても彼が小物すぎると、話の深刻さが出てこない。
いいもん3人に対し悪者1人でありながら、
すばらしいバランスで場を形成してくれました。

それは
4人が4人とも、
「座っているだけで」力があったということです。
目をつぶり、じっとしている。
でも、ちょっとした表情の変化がある。
ほとんど「筋肉の緩み」と「戻り」だけなのに、そこに感情がうまれる。

バレエでも、
プリマは立っているだけでプリマでなければならないと言います。
まさにそんな感じですね。
たたずまいが、すでにお役を表しているのです。

その上で、ここぞというセリフは、
呟くような小声から劇場をとどろかす大声まで、自在。
「表向き」のコトバと、
そこに込められた「本当の心情」とが、同時に響いてくる。
至芸です。

この場で「いいもん」の1人・園部兵衛を演じた仁左衛門は、
その前の「花見」の場面では
大悪人の秋月大学を演じています。
その「花見」で薄雪姫を演じたのは中村梅枝ですが、
「詮議」では中村児太郎、続く「合腹」では中村米吉。

途中で役者が変わる役、変わらない役、いろいろあって、
初めて歌舞伎をご覧になる方は戸惑われるかもしれません。
でも、
仁左衛門が悪役のときは悪役の顔を、
いいもんのときはいいもんの顔をしているのを見れば、

役者が同じだろうが別だろうが、そんなことは関係ない、
その「役」になりきった「役者」がいる、
それだけで、芝居は楽しめるんだということを
きっと納得していただけると思います。

薄雪三人娘については、また明日!

とにかく「詮議」「合腹」は必見です。
昼と夜に別れているので、どちらか一方のチケットしか持っていない方、
どちらかしか行けないという方、
可能であれば、行けないほうも、幕見されることをおすすめします。

歌舞伎座では、
「新薄雪物語」が昼夜またいで通し上演されます。
昨年、若手が挑戦して非常に評判のよかった演目ですが、
今回は
大幹部が勢揃いで非常に重厚な布陣。
2月に仁左衛門さんのインタビューをしたときに、
「新薄雪に若手が挑戦するのは無謀とも言えたけれど、
 こうした古典に挑戦することは非常に大事だし、
 結果も成功したと思う」とおっしゃっていました。
ベテランも、大いに刺激されての今回の上演なのではないでしょうか。

昼の「天保遊俠録」は、
勝海舟の父親・勝小吉の物語。
中村橋之助が小吉を演じます。
私はこの作品が大好き。それも橋之助の小吉が大好き!
わかりやすいお話ですし、ビギナーにもおすすめです。
幕見でも楽しめるので、ぜひご覧になってください。

夜の「夕顔棚」は、ほのぼのとした舞踊作品。
とはいえ、
酸いも甘いも知り尽くした通人の
尾上菊五郎が婆、市川左團次の爺では、
どんな面白い掛け合いが飛び出るのか、予測不能!
これも仕事帰りに幕見しても楽しいかもしれませんね。

今月は、
博多座が充実しています。
四代目中村鴈治郎の襲名披露公演。

注目は「芸道一代男」。
これは初代中村鴈治郎が世に出るまでを描いた作品ですが、
香川照之が歌舞伎の世界に入るまでと重なる部分もあり、
この作品に脇役とはいえ市川中車(香川照之)が出るのには感慨深いものがあります。

5月の明治座で中車の芝居を観ましたが、
歌舞伎を始めた当初に比べ、なんと歌舞伎俳優らしくなったことか!
どれだけ努力したのか、本当に感心したので、
なおのこと博多に飛んでいきたい気分です。

ほかに松竹座で片岡愛之助の「鯉つかみ」。
先月明治座で上演していたものが大阪に行きます。

市川猿之助は巡業「特別舞踊公演」が続きます。
6/6(土)は羽田空港のターミナルで公演があり、お練りもあるとのこと。
ターミナル内に江戸の町並みを意識したエリアがあり、
江戸舞台もあるので、そこで上演するようです。

羽田中村座2

羽田中村座

羽田日本橋

羽田日本橋2
ここをお練りするみたいですねー。






各公演、詳しいことは、こちらでチェックしてみてください。





4/10(金)、講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」の第6シリーズが始まりました。
16回目となる4月に取り上げたのは、
近松門左衛門の「心中天網島」です。

昨日も書きましたが、
今月歌舞伎座の中村鴈治郎襲名披露公演夜の部で上演されている
「河庄(かわしょう)」は、
その上の巻、発端の部分にあたります。

今月の舞台で
今までと違った治兵衛を感じた私は、
4月10日の講座での講義内容を一部変更し、

「心中天網島」を
上の巻「河庄」=治兵衛の物語
中の巻「紙屋内」=おさんの物語
下の巻「道行名残の橋づくし」=小春の物語

と位置付けて、3人それぞれの心理に新たな視点で迫りました。

また、
「河庄」と同じく玩辞楼(がんじろう)十二曲(中村鴈治郎の得意演目)に名を連ねている
「天網島時雨炬燵(てんのあみじま・しぐれのこたつ)」にも言及しました。
これは近松の「心中天網島」初演から数えて約半世紀後に、
近松半二が「心中紙屋治兵衛」として改作した際、
「紙屋内」のラストシーンを大幅に変更してできあがったもので、
「河庄」と同じく、単体で(見取り狂言)上演されます。

原作である近松門左衛門の「心中天網島」と
改作された近松半二の「心中紙屋治兵衛」との比較もして、
「冥途の飛脚」や「女殺油地獄」なども含め、
近松の名作は時代を200年も先取りしていたことを確信しました。

いや~、
近松は本当にすごいです。
近松の原作通りに上演し続けていたら、
心中は減ったというのが私の持論。
リアルです。容赦ないです。
 

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