仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:新春浅草歌舞伎

「お正月の歌舞伎」として定着しているのが、
1月に浅草公会堂で開催される新春浅草歌舞伎。
浅草は江戸時代、その一角に芝居小屋が集められた歴史があり
(猿若町の江戸三座=市村座・中村座・守田座)、
歌舞伎と縁の深い土地柄なのです。
新春浅草歌舞伎のもっとも大きな特徴は、
主役を含め出演する俳優を若手でかためているところ。
歌舞伎は長い修練を積んで一人前となる芸能なので、
「大歌舞伎」と銘打った歌舞伎座公演では主役を務める機会が
若手にはほとんどまわってきません。
彼らがふだん「やってみたい」と思う有名作品の大役に挑む場の一つとして、
新春浅草歌舞伎は定着してきました。
サッカーでいうと、
ワールドカップ代表が幹部、オリンピック代表が花形、といったところでしょうか。
次のオリンピックを見据えて
U-19クラスに光る選手を見つけるのと同じワクワク感が、
若手中心の新春浅草歌舞伎にはあります。

 詳しくは→

今年の新春浅草歌舞伎で、私が最も驚いたのは、
「毛抜」に出ていた坂東巳之助の粂弾正です。
巳之助が荒事を好んでいることは知っていましたが、
あのほっそりとした体で、
ここまで大きい演技ができるとは思っていませんでした。
「毛抜」の弾正は、発声からおおらかさから、
まるで亡くなった團十郎の弾正を観ているようでした。

ということで、後から見た昼の部の「三人吉三」、
大変期待したんですが、こちらはこなれていませんでしたね。
隼人のお嬢吉三とリズムがまったく合わなかった。
こうしてみると、
シネマ歌舞伎になった松也と七之助のお坊お嬢は抜群だったと
改めて感じました。

その松也、
「義経千本桜」で愛らしい子ギツネの狐忠信と、荒武者佐藤忠信をきっちり分けて好演。
「与話情浮名横櫛」でも与三郎を見事に演じ切りました。
松也が群を抜いているのは口跡の良さ。
セリフがはっきり聞こえる。言葉だけでなく、そこにまつわる感情も一緒に。
だから登場人物の気持ちが小細工しなくてもしっかり伝わってくるのです。
お富と与三郎の再会には、ただれた空気が漂うものだけれど、
今回の松也の与三郎と米吉のお富には、「会いたかった!」が溢れていて、
どんなに悪態をついてもその裏に愛情が見えてすがすがしくさえあった。
だから、いつもはご都合主義にしか思えないあっというまの幕切れも、
今回は「若者よ、よかったね!」と心から拍手できました。

女方では米吉もいいけど、
静御前を凛とした品格で演じ切った新悟にも一票入れたいです。

新春浅草歌舞伎でもう一つ、
感心したのが「仮名手本忠臣蔵」の五段目、六段目です。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場、同・二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

配役は以下の通り。
      
早野勘平 が 尾上松也、おかるが中村児太郎。
おかるの母おかやは中村芝喜松、父・与市兵衛が澤村大蔵。
四十七士で勘平の友、千崎弥五郎が中村隼人、重鎮不破数右衛門が中村歌昇。
おかるが売られる遊郭・一文字屋の女主人お才が中村 歌女之丞、
お才と一緒にやってくる判人(女衒)の源六が 中村 蝶十郎、
夜の山崎街道でおかるの父を殺す斧定九郎が坂東巳之助です。

きっちりと演じた皆にまず拍手。
松也・児太郎のコンビが恋する若夫婦をとても若々しく、
感情豊かで見ごたえ十分。

松也は声がのびやかで、さすが音羽屋。
菊五郎や菊之助の舞台を感じました。
切腹してからの「いかなればこそ勘平は・・・」のくどきは、
非常に切羽詰った緊迫感があって、
耳馴染みのよい七五調でありながら、現代的。
昨年のコクーン歌舞伎「三人吉三」でも
「月も朧に白魚の・・・」からのくだり、
お坊吉三(松也)とお嬢吉三(七之助)の掛け合いが
今までに見たこともないような疾走感にあふれていて、
それを経験した松也ならではだったのではないかと思いました。
また、
拾った五十両で武士に戻れると意気揚々と帰宅し、
「いいこと」を早くおかるに言ってしまいたい浮き浮きした表情と、
「ではあれは…」と気づいてからの悲嘆の落差が
くっきりとしていながらわざとらしさがなく、勘平の人となりに一貫性がありました。

児太郎
は古風さが忠臣蔵にうまくはまり、
古風さの中にも恋の景色が初々しいこと!
声もよく、間もよく、素敵なおかるでした!

「五十両~」と一言いって撃たれてしまう斧定九郎の巳之助も、
切れ味のよい演技と姿で存在感。
お顔もお父さん(坂東三津五郎)に似てきました~。

さらに!
不破数右衛門という、
普通なら大星由良之助(=大石内蔵助)級の重鎮が演ずる役を、
歌昇が声を低く絞って巧みに演じ、びっくり!
隣りの隼人と年齢差はあまりないのに、
弥五郎と数右衛門の格の差をちゃんと保っていました。

芝喜松、歌女之丞が脇をびしっと固めてくれたおかげもあって、
いい舞台となりました。

歌舞伎の未来は明るい!と思えた浅草新春歌舞伎でありました。
1/26まで。ぜひご覧ください!

1月15日、新春浅草歌舞伎の昼の部、夜の部を
通しで観てきました。

演目は以下の通り。
第1部
・春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
・一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
・独楽売(こまうり)

第2部
・仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
 五段目・山崎街道鉄砲渡しの場、同・二つ玉の場
 六段目・与市兵衛内勘平腹切の場
・猩々(しょうじょう)/俄獅子(にわかじし)

今回、出色の出来は、
第2部の「猩々」を踊った中村種之助です!
「猩々」というのは、お酒を飲んで酔っ払った神様が舞う、というものです。
愛嬌があって、でも品格を失わない。
端正で清々しさが勝ち、しかし緩急とリズムでお囃子に乗り、人を酔わせます。
幕が閉まってから花道を退場するまでのひと舞いを、
堂々とたっぷり見せ、
舞の名手として名高かった故・中村富十郎の「寿猩々」をほうふつとさせました。
(「寿猩々」についてはこちらをご覧ください)

中村種之助は父が中村又五郎、兄が中村歌昇です。
又五郎は子どものとき、中村光輝と名乗ってテレビなどでも活躍した名子役でした。
種之助は歌昇より、お父さんの面影を強く持っています。
立役(男性の役)一本の兄に比べ、
種之助は女方も立役もこなす分、器用ながらあまり印象が強くない役者でした。
しかし、
今回の「猩々」で一躍スターダムですね!
舞を舞わせたら種之助、と誰もが思ったことでしょう。
次の舞台が楽しみです。

(付け加えれば、巳之助はすでに「若手」の域を越えて舞を評価されつつあります。
 「獅子舞」のような、顔の見えない舞踊でも、「うまいと思ったら巳之助だった」と
 近頃は歌舞伎通をもうならせています)

2015年1月の歌舞伎は、本当に盛りだくさん!
長いので、興味のあるところから読んでくださいね。
劇場名を青く太字にしてあります。

まずは
中村翫雀改メ四代目中村鴈治郎襲名の話題から。

襲名公演というものは、心浮き立たせてくれます。
特に「口上」は一度は観ておきたいもの。
襲名の重責・厳かさとともに、襲名を支える歌舞伎俳優たちの温かさにふれると、
一観客である自分も歌舞伎の歴史に参加しているような気分になります。
もし機会を作れるようでしたら、
ぜひ大阪の松竹座におでかけください。
1月と2月、2カ月連続で襲名公演をやります。

1月の演目としては昼の「廓文章」、夜の「封印切」が、
鴈治郎としての、成駒家(なりこまや、成駒屋改メ)のいわゆるお家芸です。
父・坂田藤十郎、弟・中村扇雀、子・中村壱太郎はもちろんのこと、
上方歌舞伎を盛り上げようと、片岡仁左衛門、片岡秀太郎、坂東竹三郎ら
関西出身の俳優が一丸となって出演。
(出演予定だった片岡我當が病気降板なのは、大変残念なところ)。
人気爆発でTV露出も多い片岡愛之助も、
義父・秀太郎と久々に同じ座組みで顔を出します。

大阪は襲名公演で盛り上がりますが、
東京も、興行数の多さで負けず劣らず熱い!
歌舞伎座のほか、国立劇場と新橋演舞場、
そして浅草公会堂でも公演があります。

歌舞伎座では
昼は市川染五郎、中村七之助、中村勘九郎らによる「金閣寺」
夜は歌舞伎座初登場となる市川猿之助の「黒塚」
私は注目しています。
人気の玉三郎出演は、昼が「蜘蛛の拍子舞」、夜が「女暫」。
「蜘蛛の拍子舞」はシネマ歌舞伎にもなっていますが、
今回は玉三郎以外のキャストが一新しています。
前半の静謐、後半のスペクタクルを、ぜひ生でもご覧になってください。
(シネマ歌舞伎になった舞台のレビューはこちら
「女暫」は、「暫」の女性バージョンで、お正月らしい華やかさがあって楽しめます。
昼の「一本刀土俵入り」は、長谷川伸の名作。泣けます。
夜の「番町皿屋敷」は、あの「一ま~い、二ま~い…」のお菊さんの話。
青山播磨の狂気を、吉右衛門がどのように演ずるか、見逃せません。

浅草公会堂
チョー若手に世代交代した新春浅草歌舞伎。
この若手軍団があなどれない!
尾上松也が「仮名手本忠臣蔵」の六段目、勘平を、
中村歌昇が「一條大蔵卿」のタイトルロールを演じます。
歌昇の「一條大蔵卿」は、吉右衛門仕込みで素晴らしいですよ。
常盤御前の中村米吉も、難役を見事にこなしています。必見。
(研修会の時のレビューはこちら
坂東巳之助の舞は一流なので、「独楽売」「俄獅子」も楽しみです。
中村児太郎も、最近メキメキ力をつけてきました。
長身・イケメン中村隼人の颯爽とした姿、
ほんとに男?と思うほど美しい中村梅丸にも注目です。
兄の歌昇の陰に隠れがちな中村種之助、「猩々」に期待。

国立劇場は、
菊五郎劇団による「南総里見八犬伝」
尾上菊五郎、菊之助親子に中村時蔵、梅枝親子、
そこへ尾上松緑、坂東亀寿・亀三郎兄弟、
さらに市川左團次、市川萬蔵のベテランと役者が揃って安定感は抜群!
お話もキャラクターが立っているのでお勧めです。

新橋演舞場
では
市川海老蔵と中村獅童による「石川五右衛門」
2009年初演の新作歌舞伎で、
漫画『金田一少年の事件簿』『神の雫』やドラマの原作者・樹林伸が
原案作りに参加しています。
宙乗りなどもあるということで、
市川右近をはじめとする澤瀉屋21世紀歌舞伎組の面々がしっかりと脇を支えます。

これだけ公演があると、どれに行くか迷うし、
すべて行くとしたらスケジュールを調整するのが大変。
ついでに、おカネも大変です(笑)。
席と観劇については、また別の日に。

今月の観劇が、皆さまにとって素晴らしいスタートとなりますように。

*公演詳細は「歌舞伎美人(かぶきびと)」が詳しいです。

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