松竹座に遠征し、夜の部を観てきました。
もっともすばらしかったのは、「帯屋」だと思います。
坂田藤十郎、中村扇雀、中村壱太郎。(壱太郎の父・鴈治郎は歌舞伎座出演)
三世代全員、皆浄瑠璃が身体に染みていて、安心して観ていられます。

隣りの女の子を悪い男からかくまってあげる、くらいの気持ちで
旅先の宿で自分の布団に入れてしまった長右衛門。
自分の懐に入って身を震わせる若い娘のいい匂いに
「その気」はなかったはずだけど、気がつけば本能が先走ってしまい・・・。
でもそのツケが、5カ月後の「腹帯」となってつきつけられる。

壱太郎のお半と、藤十郎の長右衛門が、ひっしと抱き合うところ、
おじいちゃんと孫の少年が顔寄せて抱擁なんて、普通ならキモいくらいですが、
もう切なくて切なくて。もう二人とも、行きどころがないんだよね。
壱太郎の可憐さも捨てがたいが、
我慢に我慢を重ねる藤十郎が、輪をかけていい。
男の「しまった!」っていう、ずるさと、責任感と。
そして恋心も妻とお半を行ったり来たり。これぞ和事。至芸です。

壱太郎はお半と丁稚長吉の二役。
この長吉がまた抜群で、愛之助とのコミカルなかけあいでは、
最初場面を引っ張っていた愛之助が、義太夫にのって調子を上げる壱太郎にだんだん引っ張られていく。
つくづく、成駒家の至芸を思い知りました。