仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:尾上菊五郎

第17回歌舞伎彩歌は「文七元結」です。
シネマ歌舞伎でおなじみの中村勘三郎バージョンとはまた違った
キレッキレな菊五郎親分の江戸っ子ぶりをお楽しみください。

詳しくはこちらへどうぞ!

http://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n17

5月といえば初夏。初夏といえば、
「目に青葉、山ほととぎす、初鰹」。
「カッツォ、カッツォ~!」という売り声と鰹のさばきが見どころの一つ、
といえば、「髪結新三」です。
江戸の季節感満載の河竹黙阿弥作品をどうぞ。

http://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n06

2月の歌舞伎座昼の部は通し狂言「新書太閤記」です。
天下人・豊臣秀吉の生涯を描いた吉川英治の「新書太閤記」をベースに、
今回は
まだ独身時代の藤吉郎が妻ねねを娶るあたりから、
本能寺の変、中国大返し、清州会議までを
場面場面を押さえる形で駆け抜けていきます。

見どころは、尾上菊五郎の木下藤吉郎。
何がすごいって、その姿の若々しいこと!
出てきたそのときから「まだ若い頃の秀吉だな」とわかります。
「猿」と呼ばれて蔑まれ、ときに命の危険にさらされながらも、
機知に富んだやりとりと、憎めない人懐っこさを武器に、
時に直球、時に変化球で人々の信頼を得ていくさまを、
朗らかに、闊達に、魅力的に演じていきます。

織田信長役の中村梅玉が、鋭い中にも柔らかな情を見せ、
気丈な妻(尾上菊之助)と交わす最期の言葉にはジーンときます。

逆に明智光秀役の中村吉右衛門は、
信長の叡山焼討を必死でくいとめようとする武士の気迫がすごい。
それがかなわなかった後のぞっとするほど思いつめた表情のみで、
「敵は本能寺にあり」への決意をのぞかせます。

「歌舞伎」というと、隈取でたっぷり見栄を切ったり六方を踏んだり、と
いわゆる「荒事(あらごと)」を想像する方が多いと思いますが、
そのジャンルは多岐にわたります。
「映画」とひと口にいってもいろんなジャンルがあるのと同じ。

今回は「時代劇」に近い舞台として楽しめます。
よく知られたエピソードがちりばめられていますし、リラックスして観てください。
時代背景的にはちょうど今NHKで放送中の大河ドラマ「真田丸」とかぶりますね。

言ってみれば、
1年かけてやった大河ドラマを年末に「総集編」としてまとめたような感じなので、
ちょっと駆け足すぎるかなと思う場面や、ブツ切れ感もなきにしもあらず。
でも、歌舞伎は「場面」で見せるお芝居なのです。

その「場面」の中で、私が思わず涙したのが藤吉郎とねねの婚礼の段。

藤吉郎とねねの婚礼の日に、
友人の前田利家が藤吉郎の母を連れてきます。
母が「お前がこんなに立派になったら、私の私が百姓では恥ずかしかろう」というと、
藤吉郎は「そんなことない。いつだって自慢のおっかさまだ」と言うところでは、思わず涙。
その一場面しか出てこない母役・中村東蔵のすべてを包み込むような優しい声が、
「子を思う母」代表をしっかり務めて観客の心をわしづかみにしました。

主人公だけでなく、脇役の心もしっかり描いているところに
歌舞伎舞台の力があるんですよ!

昨日の歌舞伎座夜の部「籠釣瓶花街酔醒」は、
背筋がゾクゾクとなって震えるほど素晴らしい舞台でした。

「籠釣瓶花街酔醒」は
田舎から出てきた商人・佐野次郎左衛門が吉原の花魁・八ッ橋に魂を抜かれ、
入れ揚げたものの最後は皆の前で縁切りされて恥をかかされて恨みに思う話で、
花魁道中の華やかさ、廓遊びの楽しさなど浮き立つ場面も多く、
好きになってくれていると思った人からこっぴどく振られる辛さや、
好きな人に心変わりをしたなと責められる苦しさ、
皆のことを慮って振舞っていたのにそれがまったく評価されていないことへの憤りなど、
現代の私たちでも経験する感情がちりばめられていて、
歌舞伎ビギナーにもお勧めの演目です。
シネマ歌舞伎にもなっていて、こちらは玉三郎/勘三郎/仁左衛門の鉄板キャスト。
でも、
今回の菊之助/吉右衛門/菊五郎は、新たな「伝説の名舞台」になる予感満載です。

菊之助の八つ橋は、前回菊五郎の次郎左衛門で観ていますが、
そのときの、いわば楷書の硬さが消え失せて、美しさの中にも熟れて爛れた空気をまとい、
まったく違う八ッ橋像を打ち出してきました。
同じ人がこんなに違う表現ができるなんて、人間の潜在能力の高さに驚愕。
というか、菊之助、1月は立役で大立ち回り、2月は女方でバージョンアップ、
そして4月は「女殺油地獄」の与兵衛を初役、と、どこまで行くんでしょうか??
これからの歌舞伎を牽引してくれる、歌舞伎を体現してくれる、
素晴らしい努力と才能の人です。

吉右衛門の佐野次郎左衛門がまた凄い。
疱瘡の跡がひどくて顔にコンプレックスのある自分が、
金さえ積めば(そして廓のルールにのっとって上客になれば)
あの八ッ橋を自分のものにできる、と思ったそのときの顔!
最初の見染めの場面、ただ一目ぼれするだけでなく、
こんなに心の奥底にあった欲望が立ち上ってくるのを観たのは初めてです。

その後も人間の心の襞を丁寧に数えあげるような緻密な演技に脱帽。
「もしやあの超イケメンが八ッ橋の間夫では?」と思ったときの動揺。
なじられてもこづかれても、「ちがうよね、虫の居所悪いだけだよね」と
自分が嫌われているということに気づかないふりをしようとする弱者の哀しさ、
決定的な理不尽さに憤るどころか、周囲を気遣い怒りを呑みこみ、
薄笑いをうかべて小声でつぶやく「そりゃああんまり・・・つれないじゃないか」の痛切さ・・・。
そして何より、
最後の場面で、妖刀に取り憑かれたかのごとく別人格が立ち現れる不気味さ!
人間の弱さ哀しさ無念さを知り尽くしていなければ絶対にできない至芸です。

その上菊五郎が、これまでに見たことないような栄之丞を演じてびっくり!
間夫の栄之丞は、いわゆるヒモですが、
こちらは八ッ橋とは逆に、まったく爛れた感じがないのです。
「素人のときから契った」つまり、女郎に売られる前からの恋人だ、ということが、
(おいおい、その恋人に借金させていい生活してたら、いつまでたっても足抜けできないでしょ!)
という、ヒモへの非難めいた感情を起こさせない!
「俺はお前が何でも相談してくれるって信じていたのに、どうして身請けの話が進んでいるんだ?」
「さあ、この起請文を返すから、俺の起請を返せ!」
愛を誓って書いた紙、おそらくは廓に売られる前に書いて交わした起請文を、
そうして肌身離さずもっている栄之丞にけっこうムネキュンだった私。
「八ッ橋が身請けされたらこの生活はできない」なんて打算で縁切りを強要してるんじゃないのね、と
これまで抱いていた「イケメンだけどとんだヒモ」的栄之丞像がぶっ飛んでしまいました。

この溌剌直球間夫を演じるのは実父、イジメラれっ子体質の主人公は舅。
音羽屋と播磨屋の重鎮二人に挟まれて、
堂々と真ん中で舞台を張る菊之助。
3人の緊張感が隙間なくピシッと決めてくれて、観客は息を詰めて彼らを見守るのみです。
花魁の綺麗どころに梅枝、新悟、米吉。米吉がほんのチョイ役というぜいたくさ。
脇には手堅い又五郎、立花屋の主人に歌六、女将に魁春とこれ以上ない布陣。

絶対観るべき舞台です。
まだ初日から何日も経っていないのに100%の完成度。
その上、たった3日の間にもどんどん進化しているというから驚きです。

菊之助、冒頭の花魁道中で振り返り、「艶笑」を客に送るところが最初の見どころですが、
この笑みが何層にも変容していくさまには度肝を抜かれました。 
ほんとに次郎左衛門と同じくらい、口あけて凝視してしまいました。
(艶笑は、昨日はそれまでにないくらい長かったらしい)
そしてラスト、こときれるときがまた、素晴らしい! 
ぜひ、まばたきせずに演技が終わる最後の最後までご覧ください!
 
板の上に立った役者たちがわれこそ主役としのぎをけずり、
さらに、これまで八ッ橋を、次郎左衛門を、栄之丞を演じてきた名優とも競う舞台。
これが、歌舞伎です!
まだこれからでもお席がとれますので、
だまされたと思って行ってみてください。
今回は花魁道中があるので、花道が見える1階席、東席が特におすすめです。
(他の席からでも七三での「艶笑」は見えますが、西席からは見えませんので注意)

今月の歌舞伎座は、松竹創業120周年と二世尾上松緑二十七回忌追善興行が重なり、
豪華なメンバーによる公演になっています。

昼の部
「音羽嶽だんまり(おとわがたけだんまり)」
「歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)」
「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」
「人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)

「音羽嶽だんまり」
は、
尾上松也、中村梅枝、尾上右近、中村萬太郎、中村児太郎と、
若い力で魅せる舞台。
「だんまり」とは、夜の暗闇の中で、誰が誰だかわからない中、
敵と味方が錯綜していくさまをスローモーションで見せるスタイルです。

「矢の根」は、
二世尾上松緑二十七回忌追善狂言。
孫の松緑が主役の曾我五郎を務めます。
曾我十郎役に、坂田藤十郎という、豪華な舞台です。

「一條大蔵譚」
主役の一條大蔵長成が片岡仁左衛門、常盤御前は中村時蔵、
吉岡鬼次郎に尾上菊之助、妻のお京に片岡孝太郎と、
実力者ぞろいの義太夫狂言。
私としては、仁左衛門の大蔵卿も楽しみですが、
菊之助の鬼次郎に注目しています。

「人情噺文七元結」も二世尾上松緑二十七回忌追狂言。
こちらは尾上菊五郎が主役の長兵衛です。
女房お兼は中村時蔵。
菊五郎劇団の世話物でこの二人のコンビですから、
安心してゆったりと楽しめますね。
怪我してしばらく休演していた市川團蔵も、角海老手代藤助で復帰。
うれしいばかりです。
ほかに和泉屋清兵衛が市川左團次、角海老女将お駒が坂東 玉三郎。
脇も、ものすごいキャストで固めています。

夜の部
「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」より「阿古屋」と
「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」の「髪結新三」

夜の注目は、なんといっても「阿古屋」でしょう!
この演目は大変特殊で、いつでもどこでもできる演目ではありません。
「阿古屋箏責め」といって、
愛人・景清の居場所を白状させるため、遊女・阿古屋は
拷問の代わりに、「箏」「三味線」「二胡」の三楽器を衆目の前で弾かされ、
「居場所は知らぬ」という証言が嘘でないか、心の揺らぎを測られるという場面です。

・・・ということは・・・
阿古屋役の女方は、その三楽器を弾かねばならない。
「口パク」とか「エア」とかなしです。
ちゃんと弾く。それも、上手に弾けなければ、「名手への拷問」にはならないわけで。

歌舞伎俳優は、踊りなどのお稽古と同時に楽器も習いますから、
三味線の上手な人、鼓の上手な人、などなど、たくさんいらっしゃいます。
でも、箏も三味線も、さらに二胡まで弾けて、それも相当の名手、なんていう人はそうそういません。

現在「阿古屋」が演じられる人は、坂東玉三郎ただ一人です。
歌舞伎ファンの間では、

体力も気力も必要な「阿古屋」を、
完璧主義者の玉三郎がいつまで演じるか、そろそろなのではないか、
ということは、今月が、玉三郎の、つまり「阿古屋」自体の見納めになるのでは?
・・・という憶測が、歌舞伎ファンの間でささやかれています。
ぜひ、この機会をお見逃しなく!

もう一つの演目が「髪結新三」
こちらが夜の二世尾上松緑二十七回忌追善狂言で、
新三を孫の松緑が初役で演じます。
孫の左近が丁稚長松。
二人を支える音羽屋の面々がすごい!
チョイ役も含め、豪華すぎる!

髪結新三    松 緑
白子屋手代忠七    時 蔵
下剃勝奴    亀 寿
お熊    梅 枝
丁稚長松    左 近
家主女房おかく    右之助
車力善八    秀 調
弥太五郎源七    團 蔵
後家お常    秀太郎
家主長兵衛    左團次
加賀屋藤兵衛    仁左衛門
肴売新吉    菊五郎

「肴売新吉」って、あの、「カッツォ、カッツォ~!」って
初鰹を売りに来て新三の長屋の玄関先で捌く、あの新吉ですから。
それを大幹部の菊五郎丈がやるんですから!
御馳走役っていうか、もう絶対見られそうにない配役ですよ。

昼の藤十郎丈もそうですが、
追善公演というのは、襲名披露公演と並んで、
「その人(襲名の場合は先代)にお世話になった」という感謝の意味が込められていて
心温まる舞台になりますね。

詳しい情報はこちらをどうぞ。


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