仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:尾上松緑

5月といえば初夏。初夏といえば、
「目に青葉、山ほととぎす、初鰹」。
「カッツォ、カッツォ~!」という売り声と鰹のさばきが見どころの一つ、
といえば、「髪結新三」です。
江戸の季節感満載の河竹黙阿弥作品をどうぞ。

http://www.eigeki.com/special/column/kabukisaika_n06

今月の歌舞伎座は、松竹創業120周年と二世尾上松緑二十七回忌追善興行が重なり、
豪華なメンバーによる公演になっています。

昼の部
「音羽嶽だんまり(おとわがたけだんまり)」
「歌舞伎十八番の内 矢の根(やのね)」
「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」
「人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)

「音羽嶽だんまり」
は、
尾上松也、中村梅枝、尾上右近、中村萬太郎、中村児太郎と、
若い力で魅せる舞台。
「だんまり」とは、夜の暗闇の中で、誰が誰だかわからない中、
敵と味方が錯綜していくさまをスローモーションで見せるスタイルです。

「矢の根」は、
二世尾上松緑二十七回忌追善狂言。
孫の松緑が主役の曾我五郎を務めます。
曾我十郎役に、坂田藤十郎という、豪華な舞台です。

「一條大蔵譚」
主役の一條大蔵長成が片岡仁左衛門、常盤御前は中村時蔵、
吉岡鬼次郎に尾上菊之助、妻のお京に片岡孝太郎と、
実力者ぞろいの義太夫狂言。
私としては、仁左衛門の大蔵卿も楽しみですが、
菊之助の鬼次郎に注目しています。

「人情噺文七元結」も二世尾上松緑二十七回忌追狂言。
こちらは尾上菊五郎が主役の長兵衛です。
女房お兼は中村時蔵。
菊五郎劇団の世話物でこの二人のコンビですから、
安心してゆったりと楽しめますね。
怪我してしばらく休演していた市川團蔵も、角海老手代藤助で復帰。
うれしいばかりです。
ほかに和泉屋清兵衛が市川左團次、角海老女将お駒が坂東 玉三郎。
脇も、ものすごいキャストで固めています。

夜の部
「壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)」より「阿古屋」と
「梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)」の「髪結新三」

夜の注目は、なんといっても「阿古屋」でしょう!
この演目は大変特殊で、いつでもどこでもできる演目ではありません。
「阿古屋箏責め」といって、
愛人・景清の居場所を白状させるため、遊女・阿古屋は
拷問の代わりに、「箏」「三味線」「二胡」の三楽器を衆目の前で弾かされ、
「居場所は知らぬ」という証言が嘘でないか、心の揺らぎを測られるという場面です。

・・・ということは・・・
阿古屋役の女方は、その三楽器を弾かねばならない。
「口パク」とか「エア」とかなしです。
ちゃんと弾く。それも、上手に弾けなければ、「名手への拷問」にはならないわけで。

歌舞伎俳優は、踊りなどのお稽古と同時に楽器も習いますから、
三味線の上手な人、鼓の上手な人、などなど、たくさんいらっしゃいます。
でも、箏も三味線も、さらに二胡まで弾けて、それも相当の名手、なんていう人はそうそういません。

現在「阿古屋」が演じられる人は、坂東玉三郎ただ一人です。
歌舞伎ファンの間では、

体力も気力も必要な「阿古屋」を、
完璧主義者の玉三郎がいつまで演じるか、そろそろなのではないか、
ということは、今月が、玉三郎の、つまり「阿古屋」自体の見納めになるのでは?
・・・という憶測が、歌舞伎ファンの間でささやかれています。
ぜひ、この機会をお見逃しなく!

もう一つの演目が「髪結新三」
こちらが夜の二世尾上松緑二十七回忌追善狂言で、
新三を孫の松緑が初役で演じます。
孫の左近が丁稚長松。
二人を支える音羽屋の面々がすごい!
チョイ役も含め、豪華すぎる!

髪結新三    松 緑
白子屋手代忠七    時 蔵
下剃勝奴    亀 寿
お熊    梅 枝
丁稚長松    左 近
家主女房おかく    右之助
車力善八    秀 調
弥太五郎源七    團 蔵
後家お常    秀太郎
家主長兵衛    左團次
加賀屋藤兵衛    仁左衛門
肴売新吉    菊五郎

「肴売新吉」って、あの、「カッツォ、カッツォ~!」って
初鰹を売りに来て新三の長屋の玄関先で捌く、あの新吉ですから。
それを大幹部の菊五郎丈がやるんですから!
御馳走役っていうか、もう絶対見られそうにない配役ですよ。

昼の藤十郎丈もそうですが、
追善公演というのは、襲名披露公演と並んで、
「その人(襲名の場合は先代)にお世話になった」という感謝の意味が込められていて
心温まる舞台になりますね。

詳しい情報はこちらをどうぞ。


中村歌昇・種之助兄弟による初めての勉強会が
8/24、25に国立劇場小劇場で行われました。
演目は「毛谷村」と「船弁慶」。

「毛谷村」は歌昇が主人公の六助です。
お園は中村芝雀、微塵弾正を尾上松緑という豪華な布陣。
「船弁慶」は種之助が静御前/知盛霊で、
こちらも義経に市川染五郎を迎え、
弁慶は父・又五郎、舟長は兄・歌昇でした。

特筆は種之助の静御前で、
これまで観たどんな静とも異なる、清廉かつ瑞々しい出来。
私はこの演目を観るといつも
「恋人との別れを前に白拍子として舞うように命じられる」つまり
商売女としてしか見られていない静が哀れでならないのですが、
今回はそんなことどこかに吹っ飛んでしまうほど、
静と義経の間には熱い熱い恋人同士のきずながありました。

静には、義経しか見えない。
一瞬でも長く義経と一緒にいたい恋心、
義経の航海無事を願い、一心に舞うひたむきさ。
その情熱のほとばしりがありながら、
能舞の格調の高さを凛と保っているのです。

そうした静の心根を、染五郎の義経もしっかりと受け止め、
上に立つ者として苦渋の決断をしながらも、
「本当はお前といたいんだ!」の視線が静の瞳を指して空中を一直線!
短いセリフの中に、ドラマが感じられます。
美しく、凛々しく、心優しい義経が最高でした。

若い二人の間に割って入る弁慶ですが、又五郎の弁慶は情に厚い。
別れさせなければならない苦悩をかみ殺すところが、
「この場に悪い人などだれもいないんだな。せつないな~」を実感させます。

観る前は、静より知盛の霊のほうを期待していたのですが、
こちらは「まだまだ」。
重力を感じさせない足の運びは素晴らしいものの、小粒な知盛となりました。

舟長役は小気味よく好演した歌昇、「毛谷村」では六助を。
しかし六助、一筋縄ではいきません。

親孝行のためだと言われればわざと負ける気の好い田舎者としての顔、
助けた子どもの面倒をみる、子ども好きな顔、
「母にしろ」「嫁にしろ」と押しかけられてもすぐに気分を害さず、
「今日は奇妙なことばかり起こるな~」と笑って構えるおおらかさ。
しかし一転、
師匠と仰ぎ見るお園の父・一味斎の横死を知り、かつ
弾正に騙されたと知って形相が変わり、凄みが出るところ。
最後は敵討ちに出掛ける雄々しさと、「女房」に見送られる面映ゆさと。

がんばってはいましたが、六助の心の動きが手に取るように見えるまではいきませんでした。
子どもをあやすところでは泣きすぎ、後半は微笑みすぎか。
どちらかというと、前半におおらかさを、後半は剣術の達人としての厳しさを強調し、
メリハリを逆につけたほうがよかった気がする。
これ、愛之助で観たときもそう思ったけれど、
受けの多い役なので、本当に難しいんですよ。
吉右衛門とか菊五郎とか仁左衛門とか、重鎮がやった初めて味が出る。
大体が、「力持ちの大女」が惚れる「無敵の大男」の話なので、
小柄な歌昇にはただでさえハードルの高い人物でした。

でも、いいんです。
勉強会ですから。本役にするには、当然気の遠くなるような道のりが必要なのです。
「まだまだ」が如実に現れ、はるか向こうに高みの嶺があるのだと自覚することこそ、
勉強会の本分です。

すべてはここから。がんばれ、兄弟!

今月の松竹座は、
昼が「鈴ヶ森」「雷船頭」「ぢいさんばあさん」、
夜は「 絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」の通し狂言です。

夜の「絵本合法衢」では
先月、「新薄雪物語」の「花見」で
悪人・秋月大膳をスケール大きく演じた片岡仁左衛門の
悪人二役を演じ分けるところに注目。
その仁左衛門、
昼の部「ぢいさんばあさん」では、
まっすぐながら気短なため一生を棒に振ってしまった青年と、
その彼が苦難を越えてまるくなった老年とを演じ分けます。
泣けますよ、「ぢいさんばあさん」。
愛する夫の不在をひたむきに生き、再会を夢みる女性・るんを
時蔵が演じます。
その時蔵、「絵本合法衢」ではうんざりお松。
上品な武家の若妻るんと対照的に悪婆! 昼夜で女方の両極端を見せてくれます。
ほかに時蔵は「雷船頭」でいなせな踊もりも。

今月は、国立劇場にも大きな注目が集まっています。
女方として人気・実力とも評価の高い尾上菊之助が、
これまでに演じたことのないタイプの立役(男の役)に挑戦。
「義経千本桜」の「渡海屋(とかいや)・大物浦(だいもつのうら)」の
通称「碇知盛」です。
屋島の戦いで義経に追い詰められ、
死しても絶対に自分の首をとられまいと
碇を自身の体に巻きつけて入水していったとされる
勇猛な平知盛の最期を描いた作品です。

この「碇知盛」は、菊之助にとって舅である中村吉右衛門の当たり役。
菊之助はいったいどんな知盛を演ずるのか、
彼の目指す知盛はどんな人物なのか、
その目指すところまで、楽日までに到達できるのか、
さまざまに興味をかきたてる演目です。
こちらも3日からですが、歌舞伎座なみにチケットは完売。
普通の興行ではなく「歌舞伎鑑賞教室」で、
梅枝の内侍の局、萬太郎の義経、
亀三郎の相模五郎、尾上右近の入江丹蔵と
いずれも若手が大役に挑戦。
弁慶は市川團蔵で、脇を固めます。

詳しくはこちらから。


ほかに、巡業の東コースが松竹大歌舞伎
「中村翫雀改め四代目 中村鴈治郎襲名披露」。

「双蝶々曲輪日記」のうち「引き窓」と「連獅子」に
「口上」があります。
「引窓」は玩辞楼十二曲の一つ。
南与兵衛(南方十次兵衛)の鴈治郎のほか、
女房お早に中村壱太郎、濡髪長五郎に尾上松緑が扮します。
「連獅子」は、中村扇雀と虎之介の親子獅子です。
亀寿と亀鶴の宗論も楽しそうですね!

巡業ですので、各地で上演します。
会場や日時はこちらでお確かめください。

同じ巡業でも
東コースが上方成駒家なら、
中央コースは江戸の成駒屋。
中村橋之助一家が中心です。
「天衣紛上野初花」の「河内山(こうちやま)」と
「藤娘」「芝翫奴(しかんやっこ)」。
児太郎が藤娘を、国生が芝翫奴を踊ります。

会場や日程はこちらにて、必ずお確かめ下さい。

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