大阪松竹座夜の部は、「絵本合法衢(えほんがっぽうつじ)」の通しです。
なかなか上演されない演目で、
平成4年に孝夫時代の仁左衛門で上演された後、
平成23年3月に国立劇場でかかったのですが、
あの3.11、東日本大震災のために途中で中止となりました。
私もチケットを払い戻しています。
翌24年に仕切り直しでもう一度公演、ようやく観られました。

そのときは、
筋を追うのがとても大変でした。
仁左衛門が「左枝大学之助」と「太平次」の二役をやるんですが、
なんでこの二役をいっしょにやるのかもストンと腑に落ちていなかったし、
頭のなかに「なぜ」がいつもあって、
演目を楽しめるところまでいっていなかったというのが本当のところです。
唯一印象的だったのは、
「大和の倉狩峠」=「奈良の暗峠」にぽつんとある家での場面。
太平次の女房お道が、最後に夫の悪事に見切りをつけて裏切るところでした。

それに比べて、
今回はなんと「悪の華」を楽しめたことか!
自分の心持の違いでしょうか。
今回は仁左衛門丈が監修しています。

まず第一幕第一場、
燈籠の陰から笠をかぶった武士が出てきたその瞬間、
あ、これが大学之助だ、悪いヤツの親玉だ!とわかる、その大きさ!

先月の「新薄雪物語」、「花見」の場でも、
仁左衛門は秋月大学という悪者の役で、笠をかぶって出てきます。
そのときより、さらにダークな空気を身にまとっていた感あり。

この大学、敵だけでなく味方までも、
用済みだったり気に入らなかったりするとバッサバッサと斬りまくる。
文字通り、問答無用。
生殺与奪、オレが決める!の悪の権化です。

その大きさに比べ、
太平治は本当にこすっからいヤツで、
仁左衛門はその太平次を、背中を丸め、首をすくめ、軽い調子で演じる。
反りかえり、肘を張って大きさを見せる大学之助とは、別人です。
早口で、ときにコメディタッチに、ときに色っぽく。
「ワルだね~」とこちらもニヤっとしてしまう、ちょっと憎めないヤツ。
と思いきや、
殺し場では容赦ない。背筋が寒くなります。

とりわけ倉狩峠で
お米(中村米吉)と孫七(中村隼人)を串刺しにするところ!

太平次の留守中、
味方と思っていた太平次が敵方の人間と知った二人と
戻ってきた太平次との息を呑むやりとり。
太平次の殺気がものすごい。
手に汗握る緊張感です。
そして、最後は串刺し。スローモーションで反り返り崩れていく美男美女と
仁王立ちの殺人者の構図は、
一枚の錦絵として妖しく、美しく、圧倒的なパワーを放つ。

米吉の断末魔の叫び声と、
白塗りの顔にほつれ髪がかかる隼人の死に顔の美しさは絶品で、
いつまでも、目に、耳に、残ります。

一度観たはずなんですが、
最後はいったいどうなったか、
悪の権化、大学之助は因果応報で誅伐されるのか????

・・・ここがミソ!

確かに大学之助、一太刀浴びたことは浴びたのですが、
最後の最後まで見せずに、
「本日は、これ~ぎ~り~」の切口上で、強制終了!

だから歌舞伎は面白い、のでありました!

この通しでは、一幕から三幕まで、仁左衛門出ずっぱりです。
体力的に、かなり大変ですので、
この先何回できることか。
ご覧になれる方は、ぜひ今月、松竹座へお越しください。
「悪」なのに、「カッコいい」。

この公演中に、片岡仁左衛門は人間国宝に認定されました。
歌舞伎の真骨頂を、お楽しみくださいませ。