仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:中村隼人

大阪松竹座夜の部は、「絵本合法衢(えほんがっぽうつじ)」の通しです。
なかなか上演されない演目で、
平成4年に孝夫時代の仁左衛門で上演された後、
平成23年3月に国立劇場でかかったのですが、
あの3.11、東日本大震災のために途中で中止となりました。
私もチケットを払い戻しています。
翌24年に仕切り直しでもう一度公演、ようやく観られました。

そのときは、
筋を追うのがとても大変でした。
仁左衛門が「左枝大学之助」と「太平次」の二役をやるんですが、
なんでこの二役をいっしょにやるのかもストンと腑に落ちていなかったし、
頭のなかに「なぜ」がいつもあって、
演目を楽しめるところまでいっていなかったというのが本当のところです。
唯一印象的だったのは、
「大和の倉狩峠」=「奈良の暗峠」にぽつんとある家での場面。
太平次の女房お道が、最後に夫の悪事に見切りをつけて裏切るところでした。

それに比べて、
今回はなんと「悪の華」を楽しめたことか!
自分の心持の違いでしょうか。
今回は仁左衛門丈が監修しています。

まず第一幕第一場、
燈籠の陰から笠をかぶった武士が出てきたその瞬間、
あ、これが大学之助だ、悪いヤツの親玉だ!とわかる、その大きさ!

先月の「新薄雪物語」、「花見」の場でも、
仁左衛門は秋月大学という悪者の役で、笠をかぶって出てきます。
そのときより、さらにダークな空気を身にまとっていた感あり。

この大学、敵だけでなく味方までも、
用済みだったり気に入らなかったりするとバッサバッサと斬りまくる。
文字通り、問答無用。
生殺与奪、オレが決める!の悪の権化です。

その大きさに比べ、
太平治は本当にこすっからいヤツで、
仁左衛門はその太平次を、背中を丸め、首をすくめ、軽い調子で演じる。
反りかえり、肘を張って大きさを見せる大学之助とは、別人です。
早口で、ときにコメディタッチに、ときに色っぽく。
「ワルだね~」とこちらもニヤっとしてしまう、ちょっと憎めないヤツ。
と思いきや、
殺し場では容赦ない。背筋が寒くなります。

とりわけ倉狩峠で
お米(中村米吉)と孫七(中村隼人)を串刺しにするところ!

太平次の留守中、
味方と思っていた太平次が敵方の人間と知った二人と
戻ってきた太平次との息を呑むやりとり。
太平次の殺気がものすごい。
手に汗握る緊張感です。
そして、最後は串刺し。スローモーションで反り返り崩れていく美男美女と
仁王立ちの殺人者の構図は、
一枚の錦絵として妖しく、美しく、圧倒的なパワーを放つ。

米吉の断末魔の叫び声と、
白塗りの顔にほつれ髪がかかる隼人の死に顔の美しさは絶品で、
いつまでも、目に、耳に、残ります。

一度観たはずなんですが、
最後はいったいどうなったか、
悪の権化、大学之助は因果応報で誅伐されるのか????

・・・ここがミソ!

確かに大学之助、一太刀浴びたことは浴びたのですが、
最後の最後まで見せずに、
「本日は、これ~ぎ~り~」の切口上で、強制終了!

だから歌舞伎は面白い、のでありました!

この通しでは、一幕から三幕まで、仁左衛門出ずっぱりです。
体力的に、かなり大変ですので、
この先何回できることか。
ご覧になれる方は、ぜひ今月、松竹座へお越しください。
「悪」なのに、「カッコいい」。

この公演中に、片岡仁左衛門は人間国宝に認定されました。
歌舞伎の真骨頂を、お楽しみくださいませ。

新春浅草歌舞伎でもう一つ、
感心したのが「仮名手本忠臣蔵」の五段目、六段目です。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場、同・二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

配役は以下の通り。
      
早野勘平 が 尾上松也、おかるが中村児太郎。
おかるの母おかやは中村芝喜松、父・与市兵衛が澤村大蔵。
四十七士で勘平の友、千崎弥五郎が中村隼人、重鎮不破数右衛門が中村歌昇。
おかるが売られる遊郭・一文字屋の女主人お才が中村 歌女之丞、
お才と一緒にやってくる判人(女衒)の源六が 中村 蝶十郎、
夜の山崎街道でおかるの父を殺す斧定九郎が坂東巳之助です。

きっちりと演じた皆にまず拍手。
松也・児太郎のコンビが恋する若夫婦をとても若々しく、
感情豊かで見ごたえ十分。

松也は声がのびやかで、さすが音羽屋。
菊五郎や菊之助の舞台を感じました。
切腹してからの「いかなればこそ勘平は・・・」のくどきは、
非常に切羽詰った緊迫感があって、
耳馴染みのよい七五調でありながら、現代的。
昨年のコクーン歌舞伎「三人吉三」でも
「月も朧に白魚の・・・」からのくだり、
お坊吉三(松也)とお嬢吉三(七之助)の掛け合いが
今までに見たこともないような疾走感にあふれていて、
それを経験した松也ならではだったのではないかと思いました。
また、
拾った五十両で武士に戻れると意気揚々と帰宅し、
「いいこと」を早くおかるに言ってしまいたい浮き浮きした表情と、
「ではあれは…」と気づいてからの悲嘆の落差が
くっきりとしていながらわざとらしさがなく、勘平の人となりに一貫性がありました。

児太郎
は古風さが忠臣蔵にうまくはまり、
古風さの中にも恋の景色が初々しいこと!
声もよく、間もよく、素敵なおかるでした!

「五十両~」と一言いって撃たれてしまう斧定九郎の巳之助も、
切れ味のよい演技と姿で存在感。
お顔もお父さん(坂東三津五郎)に似てきました~。

さらに!
不破数右衛門という、
普通なら大星由良之助(=大石内蔵助)級の重鎮が演ずる役を、
歌昇が声を低く絞って巧みに演じ、びっくり!
隣りの隼人と年齢差はあまりないのに、
弥五郎と数右衛門の格の差をちゃんと保っていました。

芝喜松、歌女之丞が脇をびしっと固めてくれたおかげもあって、
いい舞台となりました。

歌舞伎の未来は明るい!と思えた浅草新春歌舞伎でありました。
1/26まで。ぜひご覧ください!

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