仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

タグ:中村児太郎

今月の歌舞伎座は、

「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)~十種香」
木下順二作「赤い陣羽織」
「重戀雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」

本朝廿四孝では八重垣姫を中村七之助が、濡衣は中村児太郎、勝頼が尾上松也のフレッシュな顔ぶれで。
「赤い陣羽織」は肩の凝らない民話仕立て。喉をつくって「牡丹燈籠」で玉三郎相手に抜群の呼吸を見せた市川中車と、若いながら変幻自在の女方を務める児太郎に期待。
「重戀雪関扉」はなんといっても玉三郎の傾城墨染実は小町桜の精が眼福。
そして松緑が関守関兵衛実は大伴黒主をどこまで大きく演じられるかがカギです。
 

通し狂言「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」
「杉酒屋」は文楽ではよくかかりますが、歌舞伎ではあまり出ません。
「杉酒屋」「道行恋苧環」のお三輪は七之助、「金殿」のお三輪は玉三郎が演じます。
橘姫は児太郎。
今年4月の平成中村座で、七之助/児太郎での金殿を観ています。
今回児太郎は七之助と玉三郎の二人のお三輪を相手にしますが、健闘を期待します。
玉三郎も、後輩たちへ自分の芸を間近で示し教えるチャンスですから、一際輝いて見せるでしょう。
中車が初の女方に挑戦するのも話題ですね。

詳しくは、歌舞伎美人(かぶきびと)をご覧ください。
最近サイトがリニューアルされ、「みどころ」「配役」などは、左上の方にクリックするボタンがあります。 

今月の松竹座は、
昼が「鈴ヶ森」「雷船頭」「ぢいさんばあさん」、
夜は「 絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」の通し狂言です。

夜の「絵本合法衢」では
先月、「新薄雪物語」の「花見」で
悪人・秋月大膳をスケール大きく演じた片岡仁左衛門の
悪人二役を演じ分けるところに注目。
その仁左衛門、
昼の部「ぢいさんばあさん」では、
まっすぐながら気短なため一生を棒に振ってしまった青年と、
その彼が苦難を越えてまるくなった老年とを演じ分けます。
泣けますよ、「ぢいさんばあさん」。
愛する夫の不在をひたむきに生き、再会を夢みる女性・るんを
時蔵が演じます。
その時蔵、「絵本合法衢」ではうんざりお松。
上品な武家の若妻るんと対照的に悪婆! 昼夜で女方の両極端を見せてくれます。
ほかに時蔵は「雷船頭」でいなせな踊もりも。

今月は、国立劇場にも大きな注目が集まっています。
女方として人気・実力とも評価の高い尾上菊之助が、
これまでに演じたことのないタイプの立役(男の役)に挑戦。
「義経千本桜」の「渡海屋(とかいや)・大物浦(だいもつのうら)」の
通称「碇知盛」です。
屋島の戦いで義経に追い詰められ、
死しても絶対に自分の首をとられまいと
碇を自身の体に巻きつけて入水していったとされる
勇猛な平知盛の最期を描いた作品です。

この「碇知盛」は、菊之助にとって舅である中村吉右衛門の当たり役。
菊之助はいったいどんな知盛を演ずるのか、
彼の目指す知盛はどんな人物なのか、
その目指すところまで、楽日までに到達できるのか、
さまざまに興味をかきたてる演目です。
こちらも3日からですが、歌舞伎座なみにチケットは完売。
普通の興行ではなく「歌舞伎鑑賞教室」で、
梅枝の内侍の局、萬太郎の義経、
亀三郎の相模五郎、尾上右近の入江丹蔵と
いずれも若手が大役に挑戦。
弁慶は市川團蔵で、脇を固めます。

詳しくはこちらから。


ほかに、巡業の東コースが松竹大歌舞伎
「中村翫雀改め四代目 中村鴈治郎襲名披露」。

「双蝶々曲輪日記」のうち「引き窓」と「連獅子」に
「口上」があります。
「引窓」は玩辞楼十二曲の一つ。
南与兵衛(南方十次兵衛)の鴈治郎のほか、
女房お早に中村壱太郎、濡髪長五郎に尾上松緑が扮します。
「連獅子」は、中村扇雀と虎之介の親子獅子です。
亀寿と亀鶴の宗論も楽しそうですね!

巡業ですので、各地で上演します。
会場や日時はこちらでお確かめください。

同じ巡業でも
東コースが上方成駒家なら、
中央コースは江戸の成駒屋。
中村橋之助一家が中心です。
「天衣紛上野初花」の「河内山(こうちやま)」と
「藤娘」「芝翫奴(しかんやっこ)」。
児太郎が藤娘を、国生が芝翫奴を踊ります。

会場や日程はこちらにて、必ずお確かめ下さい。

昨日は一人の役者が複数の人物を演じている、という話をしました。

仁左衛門は「花見」で秋月大学、「詮議」「広間・合腹」で園部兵衛、
菊五郎は「花見」が奴妻平で「詮議」は葛城民部です。

逆に薄雪姫の役は、3人が務めます。
「花見」が中村梅枝、「詮議」が中村児太郎、
「広間・合腹」と「正宗内」が中村米吉です。

お寺参詣で左衛門に一目惚れしてしまった薄雪姫は、
文を渡したり、屋敷に忍んできてと頼んだり、
お姫様ながら積極的です。
その「積極的」な気持ちと、
だからこそ大好きな人と家族を窮地に立たせてしまった申し訳なさと、
ああ、こんなイノセントなお姫さまがズンズンアタックしてきたら、
オトコ、ひとたまりもないなー、っていう説得力が
すべて揃っていたのは米吉だったと思います。

梅枝はお姫様らしくはありましたが、
肝心の付け文のあたりがちょっと弱かった。
そんなに好きなの?っていうところが伝わってきませんでした。

児太郎も、
自分の書いた付け文にある「刀」の絵の下に「心」で「忍ぶ」の判じ物が
献上の刀にやすりを入れての調伏をするという謀反の証拠にされている、
とわかったときの驚きや怖ろしさが見えませんでした。

米吉は
「正式な嫁でもないのにこんなにやさしくしてもらって心苦しい」
「ああ、全部私が悪いのにごめんなさいごめんなさい」の気持ちが
さして見せ場があるわけではないのに全身から発せられるのがわかりました。
それでいて、
「やっぱり一人じゃ逃げたくない、あの人と一緒がいい」っていうワガママ娘で、
そういう愚かなところがあるからこそ、
「忍んできてね」と言っちゃったんだろう、と納得してしまいました。

米吉なら「花見」や「詮議」の薄雪姫をどう演じたか、
他の二人には気の毒ですが、見てみたいと思いました。

新春浅草歌舞伎でもう一つ、
感心したのが「仮名手本忠臣蔵」の五段目、六段目です。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場、同・二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

配役は以下の通り。
      
早野勘平 が 尾上松也、おかるが中村児太郎。
おかるの母おかやは中村芝喜松、父・与市兵衛が澤村大蔵。
四十七士で勘平の友、千崎弥五郎が中村隼人、重鎮不破数右衛門が中村歌昇。
おかるが売られる遊郭・一文字屋の女主人お才が中村 歌女之丞、
お才と一緒にやってくる判人(女衒)の源六が 中村 蝶十郎、
夜の山崎街道でおかるの父を殺す斧定九郎が坂東巳之助です。

きっちりと演じた皆にまず拍手。
松也・児太郎のコンビが恋する若夫婦をとても若々しく、
感情豊かで見ごたえ十分。

松也は声がのびやかで、さすが音羽屋。
菊五郎や菊之助の舞台を感じました。
切腹してからの「いかなればこそ勘平は・・・」のくどきは、
非常に切羽詰った緊迫感があって、
耳馴染みのよい七五調でありながら、現代的。
昨年のコクーン歌舞伎「三人吉三」でも
「月も朧に白魚の・・・」からのくだり、
お坊吉三(松也)とお嬢吉三(七之助)の掛け合いが
今までに見たこともないような疾走感にあふれていて、
それを経験した松也ならではだったのではないかと思いました。
また、
拾った五十両で武士に戻れると意気揚々と帰宅し、
「いいこと」を早くおかるに言ってしまいたい浮き浮きした表情と、
「ではあれは…」と気づいてからの悲嘆の落差が
くっきりとしていながらわざとらしさがなく、勘平の人となりに一貫性がありました。

児太郎
は古風さが忠臣蔵にうまくはまり、
古風さの中にも恋の景色が初々しいこと!
声もよく、間もよく、素敵なおかるでした!

「五十両~」と一言いって撃たれてしまう斧定九郎の巳之助も、
切れ味のよい演技と姿で存在感。
お顔もお父さん(坂東三津五郎)に似てきました~。

さらに!
不破数右衛門という、
普通なら大星由良之助(=大石内蔵助)級の重鎮が演ずる役を、
歌昇が声を低く絞って巧みに演じ、びっくり!
隣りの隼人と年齢差はあまりないのに、
弥五郎と数右衛門の格の差をちゃんと保っていました。

芝喜松、歌女之丞が脇をびしっと固めてくれたおかげもあって、
いい舞台となりました。

歌舞伎の未来は明るい!と思えた浅草新春歌舞伎でありました。
1/26まで。ぜひご覧ください!

↑このページのトップヘ