1月の松竹座昼の部で上演された「天衣粉上野初花~河内山」
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)の作品で、
「てんにまごう・うえのの・はつはな~こうちやま」と読みます。

今回は、主人公の河内山宗俊(そうしゅん)が片岡仁左衛門でした。
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/osaka/2015/01/_1.html

実は私、この「河内山」というお芝居、
以前はどちらかというと、苦手な部類でした。

やくざまがいの坊主が
偉いお坊さんに化けて大名の御屋敷に乗り込んで、
大名脅して、腰元を助けて、
でも帰り際に正体がばれてしまう。
すると「おれは河内山宗俊、やせても枯れても直参だ!」とか言って開き直り、
自分のことも、企みのことも、全部白状するのにそのまま帰れて、
最後っ屁のように「馬っ鹿めェ~!」と悪態ついて去っていくという…。

これのどこに感情移入しろと??

ところが最近になって目からウロコというか、
今までとまったく違う印象を持つようになりました。

御数寄屋(おすきや)坊主という直参扱いの茶坊主・河内山が
その立場をかさに質屋に難癖つけ、
古い木刀をカタに50両貸せとまくしたてるのが冒頭の「質店(しちみせ)」。

ここで店の娘が奉公先の大名屋敷で主人の妾になれといわれ、
婚約してるからと断ると押しこめられて命も危ないことを知る。
こりゃ木刀よりもカネになる、と、娘を助ける約束をする河内山。
手付100両、成功報酬100両で、請け負ったものの、
実は大した計画も、見通しもない。
しかし、はたと思いついて高僧に化け、大名屋敷に乗り込んでいく、というわけ。

ここで私は
「小悪人」の河内山が、庶民のために「巨悪」の大名に斬り込む話なんだと納得。
つまり、
河内山宗俊ってルパン三世なんだ~!

そう考えると、悪人なのに憎めないキャラであることも、
金目の話はないかとうろついていたら、娘さんの難儀に遭遇し、
自分の危険も顧みず娘さん救出作戦に出るところも、

腰元・浪路(質屋の娘・おふじのこと)はクラリスで、
浪路を妾にしようとしている松江出雲守カリオストロ伯爵で、
ルパンが変装したりしてカリオストロ城に侵入したように、
河内山もお屋敷に乗り込んでいったと考えればすんなり受け入れられる!

もう少しでうまくいく、と思ったところでバレそうになるところも、
そうなったら開き直って「俺の名はルパン三世!」みたいに話すところも、
バレても逃げおおせるところも、
娘救出といっても正義のため一辺倒ではなく、おカネのためであり、
巨悪からもきっちり大金せしめるところも、
最後に「あ~ばよ~!」というところも、
どこもかしこも「カリオストロの城」なのでありました。

カリオストロ伯爵、じゃなかった出雲守が
どこまでも巨大で憎々しい悪人だから、
一人で乗り込む河内山がいかにうまく計画を運べるかにスリルが。
駆け引きには「ザ・交渉人」的な緊張感があります。

時々「素」が出てしまうところを隠す可笑しみも、
ルパン三世チックなのでした。

また、
もう一つ、このご時世だからこそ胸にこたえる場面があります。

「質店」の段で
河内山が「手付100両、後金(あとがね)100両」とふっかけると、
番頭がしぶるんですよ。
「おかみさん、こんなのに100両やったらだまし取られるだけですよ、
 娘さんは帰ってきませんよ」と。

河内山は、自分には最初から関係のないヤマだから
「別に自分はいいけど、今100両のカネを出し渋って、
 この店全部を譲られる跡取り娘を死なせたときには、
 損失は100両じゃきかないんじゃないの?」と余裕しゃくしゃく。

口をとがらせて金を出させまいとする番頭を押しのけて
「あんたの店には損は出させないから」と
親戚の和泉屋清兵衛という大店の主人が
「娘さんが帰ってきたら、そのときは戻してくれればいいから」と
ポケットマネーで100両出すのです。うるうる~。

母は清兵衛に深く感謝し、その場で清兵衛に100両返します。
「十に八、九は戻らないかも」と覚悟しながらも、
藁にもすがる思いで、娘のために自ら100両出すのです。
わかる~。母親だもの~。あるおカネなら出す~。

最近の人質事件をつい連想してしまいました。
最初の身代金は20億だったのが、
どんな交渉をしたのかしなかったのか、200億となり、
最後は「カネではない」になったいきさつとかも。

巨悪を前にして、庶民は無力です。
そして、
家族を、子どもを、夫を、思う気持ちは今も昔も変わりません。

今度「河内山」を見るときには、
そんなことも考えながら観劇してみてください。

ちなみに、
ルパン三世に次元大介と石川五ェ門がいるように、
河内山宗俊には、直次郎と丑松という子分がいます。

「ルパン三世」「カリオストロの城」については、これをどうぞ。