仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

カテゴリ: 観劇ガイド

国立劇場大劇場では、
中村橋之助が初役で「髪結新三」(かみゆい・しんざ)を上演します。

橋之助が新三初役ならば、
錦之助も初役、国生も初役。
その意気込みを
以下の会見でうかがい知ることができます。

http://www.ntj.jac.go.jp/topics/kokuritsu/26/4178.html

奇しくも、
急逝した三津五郎に習ったという「髪結新三」。
2013年、八月納涼歌舞伎で観た三津五郎の新三は、
単にチンピラ的な威勢の良さだけでなく、くぐもったようなダークな面が覗いて、
「帳場を捨てれば五分と五分」と、
思いのたけを本音でぶちまけるくだりは
江戸の裏町に生きる者の憤懣とやるせなさが心に迫りました。

きっと橋之助も、
キップのいい新三を見せてくれるのではないでしょうか。

手下の勝奴には息子の国生。
もうそんな役をやるようになったのですね。
勝奴を演じながら、身近に新三を学ぶ。
勝奴とは、そういう役でもあります。

進境著しい児太郎が新三に誘拐されるお熊。
「ザ・交渉人」としてお熊救出に乗り込むも、
新三に顔をつぶされてしまう弥太五郎親分は錦之助。
どちらかというと二枚目で線が細い役の多い錦之助が
太い役をどうこなすか、期待です。

ほかに「三人形(みつにんぎょう)」。
若衆に錦之助、傾城が児太郎、国生が奴の役での舞踊です。

今月は京都南座でも歌舞伎公演があります。
「三月花形歌舞伎」で、
1月に「浅草新春歌舞伎」の成功で注目を浴びた
若手中の若手たちが活躍します。

私が特に注目しているのは
昼の部では「鳴神(なるかみ)」。
松也の鳴神上人に米吉の雲絶間姫(くものたえまひめ)のコンビというだけで
わくわくします。
ある意味、浮世離れしたお坊さんを落とす峰不二子、みたいなお話なので、
そこがエロ過ぎず、でも色っぽく、それでいて格調高く、大きく演じられるか、
ぜひ観てみたいです。

ほかに「矢の根」と「流星」。
「矢の根」では荒事を極めたいという歌昇に注目。
「流星」は、急逝した父親に捧げる巳之助の舞を応援したい。

夜の部は、「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ・めおのしらなみ)。
いわゆる白浪五人男です。
若手がずらっとならぶところ、華やかでしょうね。
(3/1の出演者による清水寺参拝は、 
 スーツ姿のイケメンたちが、
 雨のため番傘もっての勢揃いでした!)
松也の弁天小僧も、
美しい娘姿と見顕し以後の不良少年姿、
どちらもカッコいいでしょうねー。


詳しくはこちらのサイトでご確認ください。
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/2015/03/post_44-ProgramAndCast.html

3月の歌舞伎は、
何といっても歌舞伎座での通し狂言「菅原伝授手習鑑」

「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」とこの「菅原伝授手習鑑」は
「丸本歌舞伎」(まるほんかぶき)と言って、
人形浄瑠璃の名作をそのまま歌舞伎にもってきた三大名長編作品として
何度も上演され愛され続けてきました。

「菅原伝授手習鑑」は見取りといって一つの段だけではよく上演され、
特に「寺子屋」や「車引」は非常に人気でよく出ますが、
通し狂言の機会はなかなかなく、
今回は2002年の菅原道真公没後千百年にちなんで行われて以来、
なんと13年ぶり。
菅丞相役には、片岡仁左衛門。
家の芸としてこれを極めることに全身全霊を傾け、
公演中は「精進潔斎(しょうじんけっさい)」、身を清め、牛肉は食べず、という徹底ぶり。
特に「道明寺」は人形浄瑠璃では当たり前のようにできるものを
役者が人間である歌舞伎でいかに説得力あるものとする
非常に難しい場面があります。

人間から神になった菅原公役が、今できるのは仁左衛門丈ただ一人。

必見です。

「通し狂言」といっても、時系列ではありながら完全な順番通りではありません。
でもこのほうが昼の部、夜の部それぞれにクライマックスがあって
非常にわかりやすく、
ビギナーの方もきっと楽しめると思います。

昼の部
「賀茂堤」「筆法伝授」「道明寺」で、
菅丞相(かんしょうじょう・菅原道真のこと)が政争に巻き込まれ、
政敵の奸計から大宰府に流されるまでに軸を置いています。

夜の部
「車曳」「賀の祝」「寺子屋」と、
菅丞相に長く仕える白大夫と三つ子の息子たちが中心。
やんちゃな梅王丸、
優し過ぎて政敵に菅丞相追い打ちの口実をつくってしまう桜丸、
義理との板挟みで悲劇へと突き進む松王丸。
どの段も目が離せません。

菅丞相は昼にしか出ませんので、
仁左衛門目当ての方は、その点を気をつけましょう。

夜は夜で豪華。
松王丸に染五郎、桜丸に菊之助、梅王丸に愛之助。
「寺子屋」で松王丸とのダブル主役ともいえる源蔵には松緑という
素晴らしい布陣です。
壱太郎は昼は苅屋姫、夜は戸浪。
「寺子屋」の戸浪で、千代役の孝太郎にどれだけ伍すことができるか、
非常に楽しみです。

昼の部に松王丸は出てきませんが、
染五郎は「筆法伝授」で、源蔵役で出てきます。
逆に夜の源蔵役に専念の松緑は、昼の出演はありません。

こう見てくると、
やはり「菅原伝授手習鑑」にあって菅丞相と源蔵は
特別な存在だということがわかります。

「筆法伝授」にこそ「寺子屋」に続く大きなドラマの伏線が隠されている!
師弟愛の物語が浮かび上がってくるのは、
通し狂言ならではです。

詳しい配役やみどころは、
以下のサイトでご確認ください。

http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2015/03/post_85.html

昨日オススメした「黒塚」
この名舞台を、
実は1300円で見られるんです!

歌舞伎座には一幕見といって、
直通エレベーターで4階に上がり、一演目のみ見るという制度があります。

詳しくはこちらを。

時間や金額はその時によりますが、
1演目30分〜2時間楽しめ、
全部観ると3階B席より少し高くなる位の設定。
仕事帰りやポッカリ空いた時間に
映画を見る感覚で楽しめるし、
気に入った演目のみリピートしたいときには特にいい制度です。

もちろん良席に越したことはありませんが、
オペラグラスさえ持って行けば、十分。

ただし、
1〜3階席には行かれない構造ですので、
お買い物を楽しみたい方には不向きです。
また、
舞台上方は見切れます。
花道も全部は見えません。
(七三といって、よく役者が立ち止まって演技するところは
 今の建物になってからは4階からでもわりとよく見えます)
こうした「見切れ」は3階席も同じこと。
1等席に比べ、値段が3〜4分の1以下なので、
そこはガマンです。
今回も、夜空に浮かぶ月は見えませんでした。
私は同じ演目を以前観ているので、脳内でイメージ。
リピーターはこの脳内変換で見切れをしのぎます。

ですから、
本当に初めての観劇で、
歌舞伎を丸ごと知るには確かに良席に越したことはありません。
可能であれば、最初は良いお席での鑑賞をおすすめしています。
できるだけ舞台に近く、
等身大の俳優の動きや汗、息遣い、巻き起こる風を感じられるお席で。
衣擦れの音、焚き染めた香の匂いまで、五感で体感していただきたいからです。

少し慣れてきたら、オペラグラスを持って上から俯瞰できるお席もオツなもの。
クローズアップとロングとを自分でコントロールしながら、
お話の隅々まで堪能してください。

近くで1回、俯瞰で1回、違う角度で見るのがベストなのは、
どんな舞台芸術にも言えることですけどね。

でも、
お金も時間も無限ではないので、
ぜひ一幕見を利用して、
歌舞伎を楽しむチャンスを作ってみてください。

ふらっと行って、ふらっと入る、が理想ですが、
人気の演目は販売時間まで並ばないと売り切れる場合も。
特に天気のよい土日の昼とかは、気をつけてください。




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