仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

2015年12月

今月の国立劇場では、高麗屋の座組で「東海道四谷怪談」がかかっています。
座頭の松本幸四郎が民谷伊右衛門で、
市川染五郎がお岩初役、与茂七、小仏小平も含め三役早変わりがみどころです。
18日に観てきましたが、まずは染五郎のお岩が非常に美しかった。
顔の崩れ方もかなりグロテスクなのですが、それでもお岩の清楚さ、美しさが滲み出て、
命が尽きようとしている病み加減といい、幽霊となってからの凄絶さといい、哀れさが募りました。
先月の歌舞伎座「紅葉狩」の更科姫が素晴らしかったのですが、今回も、女方、魅力的です。

もう一つ、異色なのは通常割愛されることの多い「小汐田又之丞隠れ家」の段が出ること。
民谷伊右衛門も、お岩の父親の四谷左門も、佐藤与茂七も、
与茂七と間違えて殺されてしまう奥田庄三郎も、小汐田又之丞も皆赤穂の浪人で、
「仮名手本忠臣蔵」と密接な関係にある「四谷怪談」の側面にいつもより光を当てています。

染五郎は冒頭に鶴屋南北として登場、「仮名手本忠臣蔵」と「四谷怪談」との関係を説明し、
寸劇ながら松の廊下の塩冶判官と師直も演じますし、最後の討入り場面では大星由良之助を演じます。
お岩、与茂七、小仏小平だけにとどまらず、まさに八面六臂の大活躍!

小汐田又之丞に仕える小仏小平、いつもはちょっとしか出番がなく、
単なる「早変わり」のコマの一つにしか思えないんですが、
彼がなぜ盗みをはたらくほど薬に執着し、死んでも幽霊になって「薬くだせえ」と叫ぶのかが、
今回はよくわかります。

江戸の昔、初演時は忠臣蔵と四谷怪談を表・裏という形で交互に上演、二日がかりで全段を見せたといいます。
今回はそこまではやらないまでも、二作の絡まり合いを肌で感じることができました。
(又之丞隠れ家で繰り広げられる又之丞とお熊のイケズは、塩冶判官にイジワルをする高師直そのまま!
 又之丞は縞の掻巻を着ていて、盗みの疑いをかけられて源蔵が立ち去ろうとするところなど、与市兵衛内の勘平の切腹のくだりを踏襲)

季節の移り変わりも松の廊下が三月弥生、お岩が出産して産後の肥立ちが悪いのは蚊帳をつっている夏、そこから寒い季節になって討入りが来月に迫ったことがわかる。
庵室の伊右衛門が「お岩の祥月命日」に悪い夢を見たといって弔おうとし、お岩の幽霊にまた悩まされるのは雪の日で、そこから一気に討入りへ。
「仮名手本忠臣蔵」と同じように、松の廊下から討入りまで、
赤穂の武士たちが浪人になっている時間の中で考えられたストーリーなのだと改めて理解しました。
こんなふうに「四谷怪談」を観たことはなかったなー。

出演者は最後の討入りで浪士や吉良側の武士も演じて立ち廻りはハデハデです。
特に中村隼人は「ワンピース」のイナズマンに続き、今回も切れっきれな殺陣で見せる。
お梅役の中村米吉は、スターオーラがハンパなく、いつもなら単なる脇役なのに、
今回はお梅の心情に引き寄せられてしまいました。
四谷左門役の松本錦弥が老いても落ちぶれても武士の魂を見せつける凛々しさでたまらん!

それに比べて伊右衛門の小者さ加減といったら!
幸四郎丈の伊右衛門は、ものすごいワルという印象ではなく、刹那的な生き方をしている男という感じでした。
舅を追いかけてまで取り返したかった懐妊中のお岩なのに、いざ子どもが生まれると疎んじる、とか、
そこまで嫌いなら最初から別れてろ、とかいいたい伊右衛門ですが、
幸四郎がやると、あのときはお岩が好きだった、でも金もない、赤ん坊は泣く、妻は病気じゃもういやになる、
そこへ持参金つき仕官つきの若くてかわいいお梅との結婚話とくれば、そっちになびく、みたいな。
その場しのぎで後先考えない。
さっきまで「御家の秘薬」とか大切にしていた薬もすぐに借金のカタに渡しちゃうし、
母親のお熊に「大事にしなさい」と言われた高師直のお墨付きも同じ。
「カネがないからこれで」みたいにして仲間の路銀の足しにと渡しちゃう。
都合が悪くなるとすぐに人を殺すし、幽霊がこわくなってそこらじゅう刀振り回すし。
そういう、アタマ悪いよね、けっこう臆病だよねっていうところに説得力ありました。
女好きだけど結局誰のことも愛してない、自分しか好きになれない男、
いやもしかしたら、自分のことも親のことも、この世も嫌いなのかもっていう、哀れな男に見えました。

二回の休憩はさんで約5時間と長丁場ですが、最後が討入りでスカッとすることもあり、
あまり長くは感じませんでした。
長唄もすばらしく、それも舞台をひきしめていたと思います。

詳しくはこちらへ。26日までです。

今月の歌舞伎座は、

「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)~十種香」
木下順二作「赤い陣羽織」
「重戀雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」

本朝廿四孝では八重垣姫を中村七之助が、濡衣は中村児太郎、勝頼が尾上松也のフレッシュな顔ぶれで。
「赤い陣羽織」は肩の凝らない民話仕立て。喉をつくって「牡丹燈籠」で玉三郎相手に抜群の呼吸を見せた市川中車と、若いながら変幻自在の女方を務める児太郎に期待。
「重戀雪関扉」はなんといっても玉三郎の傾城墨染実は小町桜の精が眼福。
そして松緑が関守関兵衛実は大伴黒主をどこまで大きく演じられるかがカギです。
 

通し狂言「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」
「杉酒屋」は文楽ではよくかかりますが、歌舞伎ではあまり出ません。
「杉酒屋」「道行恋苧環」のお三輪は七之助、「金殿」のお三輪は玉三郎が演じます。
橘姫は児太郎。
今年4月の平成中村座で、七之助/児太郎での金殿を観ています。
今回児太郎は七之助と玉三郎の二人のお三輪を相手にしますが、健闘を期待します。
玉三郎も、後輩たちへ自分の芸を間近で示し教えるチャンスですから、一際輝いて見せるでしょう。
中車が初の女方に挑戦するのも話題ですね。

詳しくは、歌舞伎美人(かぶきびと)をご覧ください。
最近サイトがリニューアルされ、「みどころ」「配役」などは、左上の方にクリックするボタンがあります。 

すみません、ずいぶん長く更新できないままでした。
追ってアップしていきます。

11月末から始まっていてる京都南座の吉例顔見世興行(11/30~12/26)は
四代目中村鴈治郎襲名披露としての興行ラストを飾りますので、
昼・夜ともに玩辞楼(がんじろう)十二曲の内からの演目が並びます。


玩辞楼十二曲の内 「碁盤太平記(ごばんたいへいき)~ 山科閑居の場」  
「義経千本桜~吉野山」
玩辞楼十二曲の内 「心中天網島~河庄(かわしょう)」
「土蜘蛛」


「山科閑居」は内蔵助を中村扇雀が演じています。
扇雀は女方を演じることが多いですが、「藤十郎の恋」とこの「山科閑居」は立役が光ります。
鴈治郎といえば、「河庄」。こういう演目こそ上方で観たいもの! 観客の活気との相乗効果を楽しみたいです。
「土蜘蛛」は仁左衛門、「吉野山」は藤十郎、と大幹部の名演を堪能できます。


「信州川中島合戦~輝虎配膳」 
四代目中村鴈治郎襲名披露 口上(こうじょう)
玩辞楼十二曲の内 「土屋主税(つちやちから)」
「勧進帳」

襲名披露の口上があります。
南座では3年前、中村勘九郎の襲名披露興行のさ中に十八世勘三郎が亡くなり、
涙をこらえての口上は忘れられません。
今回はがんじろはんの福々しい笑顔で、楽しい口上になりそうです。
「土屋主税」は、四代目が自分らしい鴈治郎を発揮できる演目として、
大きな意気込みをもって取り組んでいます。
ベテラン勢勢揃いの中にあって亀鶴、梅枝がどこまで対峙できるかも楽しみ。
「勧進帳」は海老蔵の弁慶、愛之助の富樫。13年1月の新春浅草歌舞伎以来の組み合わせです。
どんな進化があるのか楽しみ。
この3年間で、海老蔵vs菊之助のほか、幸四郎vs菊五郎、吉右衛門vs菊五郎、
橋之助vs勘九郎、幸四郎vs染五郎、染五郎vs幸四郎・・・と、さまざまな勧進帳を見てきました。
愛されている演目であり、憧れの演目であり、目標の演目でもあるのだろう、とつくづく思います。

詳しくは、歌舞伎美人(かぶきびと)をご覧ください。
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