仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

2015年08月

中学生、高校生は、
歌舞伎俳優にとってはざまの季節です。
ふさわしい役も少なく、声変わりもあり、普通舞台から遠ざかります。
舞台からは遠ざかっても、稽古は続く。
このときどれくらい稽古に励むかで、のちに花開き、成る実の大きさが変わってくるものです。

そんな季節の中村鷹之資が勉強会の翔の会(8/2)で挑んだのは、
なんと、
これまでやったことのない女方の「藤娘」
歌舞伎ではなく能の「安宅」です。

父・中村富十郎はすでにありませんが、
鷹之資の周りにはたくさんの応援者がいて、
彼を支えています。
その支え方が、尋常ではないことが、この会でよくわかりました。
また、鷹之資もその尋常ではない厚情をよく理解し、
全身全霊で応えようとしています。

まずは「藤娘」。
能楽堂の橋掛かりに姿を現したときの可愛らしさ!
想像以上に似合っていました。
所作事は、上半身は軟らかいのですが、下半身の足さばきに男が出ます。
初めての女方ですから、仕方ないですね。

KAATで坂田金時の飛び六法を見たときから、
いつか鷹之助の弁慶が見たいと思っていたので、
「安宅」は楽しみにしていましたが、
まさか能で、ここまで本格的にやるとは思っていなくて、びっくりです。
故・片山幽雪師、九郎右衛門師に習い、
地謡がその九郎右衛門に味方玄、武田祥照というぜいたくさ!
いったい私は何を見に来たのかわからなくなりそうでした。

女方、能、と自分の土俵ではないところでの作品が2つ続き、
最後に踊った「玉屋」でようやく本領発揮。
様々な情景をしなやかに、楽しそうに、リラックスして踊る姿に、
この人は本当に踊りが上手いな、と感心至極。

妹の渡邊愛子も「雨の五郎」で初めての立役に挑戦しています。

今月は、自主公演や勉強会も多いです。

おもな自主公演は

第2回「翔の会」(現在高校生の中村鷹之資の勉強会)8/2@国立能楽堂

第7回「挑む!」(尾上松也。特別出演片岡孝太郎)8/8@神奈川芸術劇場(KAAT)

第1回「研の会」(市川右近。ゲストに市川猿之助)8/22、23@国立劇場小劇場

第1回「双蝶会」(中村歌昇・種之助兄弟)8/24、25@国立劇場小劇場

勉強会は

第21回稚魚の会・歌舞伎会合同公演(研修修了生と名題下)8/13~17@国立劇場小劇場
第25回上方歌舞伎会(「若鮎の会」を中心に関西系の若手)8/22、23@大阪国立文楽劇場

公演日数が少なく、小さな劇場を使うこともあり、
チケットはすぐに売り切れてしまうものが多いです。

日ごろはなかなか回ってこない大役の勉強の場として、
出来栄えよりも挑戦、努力が目的の公演ですが、
伸び盛りの若手ならではの輝きを目にする好機であり、
なによりファンにとっては貴重な時間となることでしょう。

まだ菊之助さんの知盛のレビューを書いていませんが、
取り急ぎ、8月の歌舞伎のご紹介を先にいたします。

歌舞伎座では、納涼歌舞伎が三部制で上演されます。

第一部は「おちくぼ物語」と「棒しばり」。
レジェンドになった故勘三郎丈と故三津五郎丈の「棒しばり」に
勘三郎の息子・勘九郎と、三津五郎の息子・巳之助が
二人して挑みます。
「おちくぼ物語」は和製シンデレラのようなお話。
七之助がシンデレラです。

第二部は「ひらかな盛衰記~逆櫓」と「京人形」。
「京人形」は、七之助の京人形に、勘九郎の左甚五郎。
思い描いただけで絵になる二人です。期待してます。
「逆櫓」は源平時代に取材した、
義経に討たれた木曽義仲ゆかりの者たちの物語で、
前半は「実は」の応酬、後半は立ち廻りが見どころです。
もう一つ、サブタイトルにもある「逆櫓(さかろ)」という技術を
習いに来る船頭3人の場面も有名。
国生、宣生、鶴松が、息を合わせてどこまで「櫓」を扱えるか、
それを見るのも楽しみの一つです。

第三部は「芋掘り長者」と「祇園恋づくし」。
「芋掘り長者」は、三津五郎が復活させた作品で、
踊りのヘタな藤五郎の代わりにお面をかぶって踊りを披露する治六郎が、
「仮面をとれ」と言われてしまう喜劇で、治六郎に巳之助が扮します。
「祇園恋づくし」は、さきごろ94歳で亡くなった小山三さんが
「今度これをやるといいわよ」とおっしゃっていたという演目。
祇園祭を背景に繰り広げられる、明るい恋物語です。

いつもと違って、11時、14時半、18時の開演。
特に第三部はお仕事帰りに予定できる時間ですね。

大阪では新歌舞伎座で「新・水滸伝」
市川右近を中心とした21世紀歌舞伎組が、
元祖「スーパー歌舞伎」を繰り広げます。
斜めの宙乗りあり。

市川海老蔵の六本木歌舞伎「地球投五郎宇宙荒事」
東京・六本木の初演を経て、
8月前半は名古屋中日劇場、後半は大坂オリックス劇場で上演されます。

夏は自主公演も多いです。
そのことは、また明日。

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