仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

2015年07月

歌舞伎座夜の部の「牡丹燈籠」は、私が大好きな演目です。
ただ、
今回は少しお話を端折ってつくられています。拙講座
「女性の視点で読み直す歌舞伎」⑨で「牡丹燈籠」を扱ったときの
サブタイトルに「3組の男女が織りなす‘愛と死の輪舞’」と掲げたように、
このお話にはお露と新三郎、お峰と伴蔵、お国と源次郎という
3組の男女が出てきます。
でも今回、源次郎は出てこない。お国は出てくるけれど、
源次郎とのお話を封印しているので、ほんとのチョイ役です。
私は3組の男女のなかでも、特にお国の生き方が好きなので、
そこを端折られるのはとっても残念なのですが、
それはそれとして、今回の「牡丹燈籠」も
玉三郎のお峰と中車の伴蔵の二人の関係にぐっと絞って
見ごたえがありました。

五月の明治座でも思いましたが、
中車が歌舞伎役者として非常に力をつけてきた。
香川照之という俳優のキャリアを生かすだけの基礎を
ようやく積み重ねつつあると感じます。

なにより、声が通る。これ、歌舞伎では本当に大切なことなんです。
「一声、二顔、三姿」ですからね。昔から。
オペラと同じくらい、「声のいい人が一番ハンサムで、ヒーロー」と
観客には聞こえるのです。これ、ほんと。

歌舞伎に出始めたころの中車は、すぐに声が枯れてしまい、
脇役のほうがいい声を出していて、非常にアンバランスなことが多かった。
今、中車の声は劇場の隅々にまできちんと通ります。
重要な役の人間として、感知される声です。

「牡丹燈籠」のような、江戸の庶民の市井を扱った
いわゆる「世話物」と呼ばれるジャンルでは、
中車は自分の居場所を確立したと確信しました。

ただ様式美がウェイトを占める時代物では、
まだ難しいかもしれません。
今回「牡丹燈籠」の後半が大幅にカットされ、
伴蔵がお峰を殺す場面が「幸手堤」から「関口屋内」つまり、
夜の土手に妻をだまして連れ出し、夫が糟糠の妻を故意に殺す、という凄惨な殺し場から
夫婦喧嘩の末、幽霊のお露と間違えて殺し、気がつくと改心してわびる、という
「伴蔵そんなに悪い奴じゃないじゃん」的な幕切れとなったのには、
「幸手堤の殺し場」という、錦絵のような殺人事件の「様式美」が
中車にはまだ手に負えない、と考えられたからかもしれない、と
私は想像します。

そのあたりが、歌舞伎の難しいところであり、見どころでもあるのです。

今回の「牡丹燈籠」をご覧になった方は、
シネマ歌舞伎に「牡丹燈籠」がかかったら、ぜひ見比べていただきたい。
同じ玉三郎さんを相手に、
片岡仁左衛門さんがどんな伴蔵を演ずるか、
幸手堤のおぞましくも美しい場面とはどんなものなのか、そして
お国と源次郎の恋物語もコクがあります。

今月の歌舞伎座、昼の部の出色は
猿之助の「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」です。
禿姿で出てきたその瞬間、劇場全体がパッと明るく華やぎます。
 これぞ、THE 歌舞伎!
文句なしに観客をハッピーにできる力を、彼は持っています。
切れのよい身のこなしで、
一つひとつの踊りで魅せながら、
スピーディーに次々と役を変えていく。

童熨斗丸→薬売り彦作→番頭新造八重里→座頭亀市
→傾城薄雲実は女郎蜘蛛の精

見事というほかありません。

猿之助は演じながらも時々役を離れて役者に戻り、
「どうだ!」といわんばかりの笑みを振り撒くことがあるのですが、
今回ばかりは「恐れ入りました」と許してしまいそう。
そのくらい、いい気持ちにさせてもらいました。
本物の芸の力とは、そういうものなのかもしれません。

お囃子、唄もノリノリで、華やかに打ち出しました。

いやー、素晴らしい作品に仕上がっています。
スピード感、現代感、歌舞伎らしさ、クウォリティ、スター性、
そして骨太なストーリー!
老若男女、歌舞伎通もビギナーズも、絶対はまる!
ぜひご覧ください!

以下幕間の私の叫び。

「阿弖流為」〜! ヤバイです!
 萬次郎さん、大化けにして芯の芝居〜!君臨!
新悟もいい!
染ちゃん勘ちゃん両雄両花の贅沢!
 セブンのセリフ術に惚れ惚れ。後半に続く!

いのうえ歌舞伎を知り尽くした染五郎が
初参加の勘九郎を自由に泳がせているため、
勘九郎の田村麻呂が思いっきりはじけていて素晴らしい。

阿弖流為と田村麻呂が競い合い、リスペクトしあう図が
染五郎、勘九郎のライバル心とシンクロして、
両花道で渡り台詞をかます二人がまぶしいほどにカッコいい!

スピード感あふれる殺陣の中に、
歌舞伎らしいゆっくりとした殺陣を入れ込むことで、
歌舞伎の立ち廻りの成り立ちとみなぎるエネルギーとを実感できる!
歌舞伎役者の身体が、いのうえ歌舞伎のハードな要求に
要求以上の美しさと鋭さをもって応えている! たまらない!

七之助は一人で三様のキャラクターをセリフできちんと分けて演じています。
衣裳とか化粧とかじゃない! そのままでも誰から誰になったのかわかる!

そしてなんといっても萬次郎です!
妖しく、美しく、そして恐ろしい悪の権化~!!!!

これは必見でございますよ。

七之助も新悟も萬次郎も、
今回は、女方のセリフ術の力に圧倒されます。
物語のすべては「声」にある。

脚本も素晴らしいです。
もう一度観たい。何度でも観たい。
2015年の、染五郎と勘九郎と七之助がタッグを組んで、
フルアウトで演じ切ることのできる今だからこそ実現した夢の空間!

ほんとにほんとにお見逃しなく~。

チケットとれなかった人、10月の大阪に賭けましょう!
(新橋演舞場も、2階席はまだチケットとれそうです)





今月、もっとも注目されているのが
新橋演舞場で上演される新作歌舞伎
「阿弖流為(あてるい)」です。

アテルイとは、8世紀末、大和朝廷の北進を阻んだ蝦夷の英雄の名。
しかし史実で確認できることは少なく、そのため彼を主人公としたたくさんの作品が生まれています。
2002年、同じ新橋演舞場で劇団☆新感線が
市川染五郎を主役にして初めて上演した『アテルイ』 。
今回は染五郎のほか、中村勘九郎、中村七之助などを配し、
すべての役を歌舞伎俳優で固めての完全歌舞伎化です。
中島かずきのディープな脚本、いのうえひでのりのスピーディーなアクション、
いのうえ歌舞伎のすべてを知り尽くす染五郎のリーダーシップが
新作歌舞伎としての「阿弖流為」をいかに花開かせるか、
絶対に見逃せません!

くわしくはこちらをどうぞ。

この「阿弖流為」、10月には大阪松竹座でも上演します。



ということで、今月の歌舞伎はどれも魅力的。
いずれもビギナーズにもわかりやすいものなのですが、
困ったことにチケット品薄。
もし手に入るようでしたら、迷わずゲットしてください。

ただ、
私は定価以上で求めたことはありません。
世の中にはチケットオークションというものがあり、
定価の何倍もの値段で取引されるプラチナチケットがあります。
お金に糸目をつけないで払える人はいいですが、
それが当たり前になってしまうと、
お金のない人は観劇できないことになってしまうし、
事実、
オークション転売目的で発売初日に何枚も買う人が
世の中にはいると聞きました。

演劇を愛する人たちは、
できるだけそういうシステムには載らず、
譲渡するときは、定価を上限に取引したいものです。

私がよく使うチケット交換・譲渡サイトはこちら
必ずゲットできるわけではありませんが、
とれない場合はこれもご縁とすっぱりあきらめ、
そこで使わなかったお金が
次の素晴らしい舞台を観るためにまわるのだと考えるようにしています。

今月も、
みなさんと歌舞伎の素敵な出会いがありますように!

今月の松竹座は、
昼が「鈴ヶ森」「雷船頭」「ぢいさんばあさん」、
夜は「 絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」の通し狂言です。

夜の「絵本合法衢」では
先月、「新薄雪物語」の「花見」で
悪人・秋月大膳をスケール大きく演じた片岡仁左衛門の
悪人二役を演じ分けるところに注目。
その仁左衛門、
昼の部「ぢいさんばあさん」では、
まっすぐながら気短なため一生を棒に振ってしまった青年と、
その彼が苦難を越えてまるくなった老年とを演じ分けます。
泣けますよ、「ぢいさんばあさん」。
愛する夫の不在をひたむきに生き、再会を夢みる女性・るんを
時蔵が演じます。
その時蔵、「絵本合法衢」ではうんざりお松。
上品な武家の若妻るんと対照的に悪婆! 昼夜で女方の両極端を見せてくれます。
ほかに時蔵は「雷船頭」でいなせな踊もりも。

今月は、国立劇場にも大きな注目が集まっています。
女方として人気・実力とも評価の高い尾上菊之助が、
これまでに演じたことのないタイプの立役(男の役)に挑戦。
「義経千本桜」の「渡海屋(とかいや)・大物浦(だいもつのうら)」の
通称「碇知盛」です。
屋島の戦いで義経に追い詰められ、
死しても絶対に自分の首をとられまいと
碇を自身の体に巻きつけて入水していったとされる
勇猛な平知盛の最期を描いた作品です。

この「碇知盛」は、菊之助にとって舅である中村吉右衛門の当たり役。
菊之助はいったいどんな知盛を演ずるのか、
彼の目指す知盛はどんな人物なのか、
その目指すところまで、楽日までに到達できるのか、
さまざまに興味をかきたてる演目です。
こちらも3日からですが、歌舞伎座なみにチケットは完売。
普通の興行ではなく「歌舞伎鑑賞教室」で、
梅枝の内侍の局、萬太郎の義経、
亀三郎の相模五郎、尾上右近の入江丹蔵と
いずれも若手が大役に挑戦。
弁慶は市川團蔵で、脇を固めます。

詳しくはこちらから。


ほかに、巡業の東コースが松竹大歌舞伎
「中村翫雀改め四代目 中村鴈治郎襲名披露」。

「双蝶々曲輪日記」のうち「引き窓」と「連獅子」に
「口上」があります。
「引窓」は玩辞楼十二曲の一つ。
南与兵衛(南方十次兵衛)の鴈治郎のほか、
女房お早に中村壱太郎、濡髪長五郎に尾上松緑が扮します。
「連獅子」は、中村扇雀と虎之介の親子獅子です。
亀寿と亀鶴の宗論も楽しそうですね!

巡業ですので、各地で上演します。
会場や日時はこちらでお確かめください。

同じ巡業でも
東コースが上方成駒家なら、
中央コースは江戸の成駒屋。
中村橋之助一家が中心です。
「天衣紛上野初花」の「河内山(こうちやま)」と
「藤娘」「芝翫奴(しかんやっこ)」。
児太郎が藤娘を、国生が芝翫奴を踊ります。

会場や日程はこちらにて、必ずお確かめ下さい。

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