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浅草の仮設芝居小屋、平成中村座。
連日大盛況です。
当日券を求めて何時間も前から並ぶ人も多いそうです。

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この小さな芝居小屋の臨場感を
もっとも感じられるのが、夜の部最後の演目
「幡随院長兵衛」

劇中劇のさ中に、花道に居座る客が出て、
劇が中断しちゃうくらいの騒ぎになります。
すると、客席の間を縫って長兵衛参上!
親分っぷりが最高の中村橋之助です。
敵役(坂東彌十郎)も二階に現れるなど、
ここはどこ? 江戸? っていうくらい
お芝居の世界に入り込んでしまうこと請け合い。

実は私、
「幡随院長兵衛」ってどちらかというと苦手な演目で、
ここ数年、敢えて観ないようにしていました。
山の手やくざと下町やくざの抗争みたいな話で、
最後は
山の手やくざの親分(水野十郎左衛門)が、
下町やくざの親分(幡随院長兵衛)を自分の屋敷に招き、
アウェイの敵を亡き者にしようとする。
それをわかっていて長兵衛は一人乗り込むが、
長兵衛が剣術に長けていることを知っている水野は、
わざと着物に酒をこぼして風呂に入れと言って、
丸腰のところを大勢でよってたかって殺します。

そこの場面に来ると、
私は往年の東映のやくざ映画を思い出し、
殺す方もひどいけれど、
殺されるとわかって乗り込む方も乗り込む方で、
結局やくざ同士が血で血を洗うだけよね、と
とってもやりきれなくなるのでした。

でも今回は違いました。
長兵衛とその家族に思いっきり感情移入。

自分はそんなつもりなかったけれど、
街中で次々と若い者同士が衝突してしまう日々に
「いつか自分がすべてを背負うことを覚悟しなくては」と
思っていた長兵衛の心のうち。
周りから一目置かれる存在になった自分が
最後の最後に「怖くて逃げた」なんて思われたら、
自分の配下の者たちがこれから暮らしていけない、と
考えに考えて向かうところ。
どうせ畳の上で死ねるはずないのなら、
一介の町奴にとって、
八千石の旗本とタイマン張って死ねるなら本望だ、と考えるところ。
そんな「親分」としての一面とは対照的に、
死を覚悟して水野邸に赴く前に、
幼い息子に「こんな商売するんじゃないぞ」と言い置くところなど、
子どもや妻への愛情が滲み出るような橋之助の演技が絶品です。
ぐーーーっと心を持っていかれました。

中村橋之助の長兵衛があまりにかっこよかったので、
普段はあまり買わない舞台写真を買ってしまいました。

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