通し狂言なので、本当は一日で、
昼夜別に観るとすれば昼→夜の順番での観劇を、と、
皆さんに勧めている当の本人の私が、
時間の都合で夜の部を先に観ることと相成りました。

(但し、私は昼の作品「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」ともに観たことがありますし、
 全段を通しでやった花組芝居の舞台も観て、
 全段を詳しく解説した本も読んではいますので、
 どうお話がつながるのかは知ってのことですが)

夜の部、一言でいって、オススメです!

まずは「賀の祝」から。

「賀の祝」は、
父親の七十の祝に松王丸、梅王丸、桜丸の、
三つ子とその妻が集まるという設定で始まる話です。

最初は、松王丸と梅王丸が
大人のくせに子どもっぽい兄弟げんかをしたり、
それぞれの妻が夫自慢をしたりと、
笑いが絶えないのですが、
後半は、
桜丸切腹という非常に重い展開となります。

桜丸(尾上菊之助)の若妻・八重を演じる中村梅枝が
若さ、美しさ、演技の深さを揃え、絶品です。

歌舞伎はデフォルメの芸術ですから、
「よよよ」と泣き伏す場面や
切腹を何度も遮ろうとする動作は、
ややもするとおおげさだったり、
単なるお約束に見えてしまうときがあります。

ところが梅枝の八重は、
ひとつひとつの所作が古典的でありながら、
愛する人を死なせたくない思いが
現代を生きる私たちにストレートに届く!

八重という若い女性の心をしっかりとつかみ、
さながら文楽人形に魂が乗り移ったかのようでした。

もちろん、
菊之助の桜丸もこれ以上ない美しさ!
伏し目がちでほとんど表情をくずさない中、
最後の最後に父・白大夫を見上げる瞳の切なさよ!

静かな語り口ですが、うるおいと気品あふれる声は
劇場の隅々にまで染みわたります。

白大夫の市川左團次、
念仏を唱える声に親の愛がつまっていて
思わず涙。

本当に素晴らしいです。
ぜひともご覧ください。