仲野マリの歌舞伎ビギナーズガイド

一度は観てみたい、でも敷居が高くてちょっと尻込み。 そんなあなたに歌舞伎の魅力をわかりやすくお伝えします。 古いからいい、ではなく現代に通じるものがあるからこそ 歌舞伎は400年を生き続けている。 今の私たち、とくに女性の視点を大切にお話をしていきます。

講座「女性の視点で読み直す歌舞伎」を
東京・東銀座のGINZA楽・学倶楽部で開いています。
歌舞伎座の隣りのビル。
窓から歌舞伎座のワクワクを感じながらのひとときをどうぞ!
これまでの講座内容については、http://www.gamzatti.com/archives/kabukilecture.html
GINZA楽・学倶楽部についてはhttp://ginza-rakugaku.com/をご覧ください。

2015年01月

今私がはまっているドラマがフジテレビの月9ドラマ
「デート〜恋とはどんなものかしら〜」
浮世離れしたリケジョ・依子(杏) と
自称「高等遊民」 の文化系オタクにして筋金入りのニート・巧(長谷川博己)が
それぞれ自分の目的のために
恋愛抜きで結婚しようとするコメディです。

古沢良太の脚本が秀逸で、
リズムよいセリフがポンポンと飛び交い、
シチュエーションも意外の上にまた意外。
あっという間の1時間で、即座に次回が待ち遠しくなるという
久々にドラマで高揚感をあじわっております。
至福!

さて、
ではどこが歌舞伎に関係あるかと申しますと、
「Hey, Say! Jump」の中島裕翔が好演している鷲尾君に注目。
依子の父親の部下で、
何かと依子と巧の間に割り込んでくるのですが、
この人がまさに近松門左衛門の「封印切」でいう
八右衛門の役回りなのです。

よっくよく聞けば正論を言っている。
社会的地位や周囲からの信用、金回りは、主人公より上。
ドラマではニートの巧、近松では養子あがりの忠兵衛について
「こんな男に関わったら痛い目に合いまっせ」と
とことん忠告するのだけれど、
そしてリクツではその通りなんだけど、
なぜか「悪役」の損な役回りなのです。

これを爽やかイケメンの中島君がやっても、
やっぱり敵役は敵役、というところが
まさに八右衛門キャラ。
今月の松竹座では、片岡仁左衛門が演じており、
イケメンの八右衛門はなかなかようござんす。

自分のカネでもないのにおごろうとしたり、
贈り物をしたりする巧、
ニートなのに「出版社勤務」とか、
その幻想についはまりこんでしまう巧は、
「男が立たぬ」とかすぐ言っちゃって
本当のことを口にすることができず
「じゃあいいよ、やってやるよ」と逆ギレする忠兵衛そのもの。

依子はなんで正社員の鷲尾君には目もくれないのか、
経済観念ゼロの巧とどう絡まっていくのか…。

そんな月9のお話も交えながら、
3月6日は「封印切」のお話をします。
ぜひいらしてくださいね!

その前に、
2月6日は同じく近松の「曽根崎心中」についてお話しします。
ワイドショーの再現ドラマのような実話ものの中に潜む
無垢で一途なラブストーリー。
2月の松竹座でちょうどかかりますので、
予習にいらっしゃるのもよし、
「観劇した気」になるのもよし。
ぜひお越しください。

講座のお問い合わせはGINZA楽・学倶楽部まで。




 

昨日オススメした「黒塚」
この名舞台を、
実は1300円で見られるんです!

歌舞伎座には一幕見といって、
直通エレベーターで4階に上がり、一演目のみ見るという制度があります。

詳しくはこちらを。

時間や金額はその時によりますが、
1演目30分〜2時間楽しめ、
全部観ると3階B席より少し高くなる位の設定。
仕事帰りやポッカリ空いた時間に
映画を見る感覚で楽しめるし、
気に入った演目のみリピートしたいときには特にいい制度です。

もちろん良席に越したことはありませんが、
オペラグラスさえ持って行けば、十分。

ただし、
1〜3階席には行かれない構造ですので、
お買い物を楽しみたい方には不向きです。
また、
舞台上方は見切れます。
花道も全部は見えません。
(七三といって、よく役者が立ち止まって演技するところは
 今の建物になってからは4階からでもわりとよく見えます)
こうした「見切れ」は3階席も同じこと。
1等席に比べ、値段が3〜4分の1以下なので、
そこはガマンです。
今回も、夜空に浮かぶ月は見えませんでした。
私は同じ演目を以前観ているので、脳内でイメージ。
リピーターはこの脳内変換で見切れをしのぎます。

ですから、
本当に初めての観劇で、
歌舞伎を丸ごと知るには確かに良席に越したことはありません。
可能であれば、最初は良いお席での鑑賞をおすすめしています。
できるだけ舞台に近く、
等身大の俳優の動きや汗、息遣い、巻き起こる風を感じられるお席で。
衣擦れの音、焚き染めた香の匂いまで、五感で体感していただきたいからです。

少し慣れてきたら、オペラグラスを持って上から俯瞰できるお席もオツなもの。
クローズアップとロングとを自分でコントロールしながら、
お話の隅々まで堪能してください。

近くで1回、俯瞰で1回、違う角度で見るのがベストなのは、
どんな舞台芸術にも言えることですけどね。

でも、
お金も時間も無限ではないので、
ぜひ一幕見を利用して、
歌舞伎を楽しむチャンスを作ってみてください。

ふらっと行って、ふらっと入る、が理想ですが、
人気の演目は販売時間まで並ばないと売り切れる場合も。
特に天気のよい土日の昼とかは、気をつけてください。




百花繚乱、よりどりみどりの東京歌舞伎、
ピカ一の舞台が、
歌舞伎座夜の部トリを飾る市川猿之助の「黒塚」 です。

「黒塚」は奥州の山中で暮らす老女・岩手が高僧に出会い、
人を喰らって生きてきた自分でも来世を望めるのか、と
一瞬の希望に心を輝かせたのもつかの間、
裏切られた思いに怒りを爆発させる舞踊劇で、
「猿翁十種」に数えられる澤瀉屋には大切な演目です。

猿之助の襲名公演でも観ましたし、
そのときも、さすが猿之助の名を継ぐにふさわしい出来と思いましたが、
今思えば、
あれはその片鱗であり、ほんの始まりに過ぎませんでした。

声、形、表情、身体能力、音楽との調和、緩急、
沈黙を支配できる存在感、力強さ、スピード、
憤怒、哀れ、至福、残酷…。
一体どれほどの才能が、彼の小さい身体に詰まっているのか。
私は取り立てて猿之助の大ファンというほどではありませんが、
好みの問題を突き抜けて、
心から感服、惚れ惚れします。

これからも、当代猿之助は長い時間をかけて、
自らの「黒塚」を磨き上げていくことでしょう。

今月の歌舞伎座公演については、こちらをどうぞ。
26日までです。

この名舞台を、
実は1300円で見られるんです!
一幕見といって、
直通エレベーターで4階に上がり、一演目のみ見るという制度。

これについては、
また明日。




 

1月9日、
「女性の視点で読み直す歌舞伎」第5クール第一回が開催され、
無事に終了。
今月上映のシネマ歌舞伎「日本振袖始~大蛇退治」について、
「神話と世話のリミックス」「スサノオと二人の姫」について語りました。

「日本振袖始~大蛇退治」はヤマタノオロチの退治のお話です。
近松門左衛門は、全五段の長編舞台を書きましたが、
「大蛇退治」は全体からみると、クライマックスのところ。
今回の歌舞伎では、五段目に四段目の一部を入れて
舞踊劇に仕立ててあります。

ここだけを見てもとても素晴らしい、力のある作品。
その素晴らしさを身近に触れていただきたいと、
「大蛇退治」に至るまでの道のりや人間(神?)関係を整理、
舞台では短く表れる科白にこめられた意味を探っていきました。

また、
ヤマタノオロチの話なのになぜ「振袖始」というのか、
そのあたりもお話しすると、
「へえ~!」と皆さん驚いていらっしゃいました。

私個人としては、
一見無力に思える稲田姫(ヤマタノオロチの生贄にされる)を、
近松がとても行動的で芯のある女性に描いているところが
新鮮でした。

女性には運命に流されるようなたおやかさがありながら、
その運命の中で自分のできることを探し、
力強く、自分らしく、生きていくたくましさがあります。

近松が描く女性像は、とっても深い。
ヤマタノオロチと重ねられた岩長姫の憤怒と哀しみもまた、
近松の女性観察のたまもの。
単なる「嫉妬女」ではないところが素晴らしい!

そこを玉三郎が奥底まで考察し、演じきっています。
ヤマタノオロチをいかに演出するか、
ここの美術・殺陣がまた圧巻で、ぜひご覧くださいね!

シネマ歌舞伎の情報はこちらを、
「女性の視点で読み直す歌舞伎」についてはこちらをご覧ください。



新春浅草歌舞伎でもう一つ、
感心したのが「仮名手本忠臣蔵」の五段目、六段目です。

五段目 山崎街道鉄砲渡しの場、同・二つ玉の場
六段目 与市兵衛内勘平腹切の場

配役は以下の通り。
      
早野勘平 が 尾上松也、おかるが中村児太郎。
おかるの母おかやは中村芝喜松、父・与市兵衛が澤村大蔵。
四十七士で勘平の友、千崎弥五郎が中村隼人、重鎮不破数右衛門が中村歌昇。
おかるが売られる遊郭・一文字屋の女主人お才が中村 歌女之丞、
お才と一緒にやってくる判人(女衒)の源六が 中村 蝶十郎、
夜の山崎街道でおかるの父を殺す斧定九郎が坂東巳之助です。

きっちりと演じた皆にまず拍手。
松也・児太郎のコンビが恋する若夫婦をとても若々しく、
感情豊かで見ごたえ十分。

松也は声がのびやかで、さすが音羽屋。
菊五郎や菊之助の舞台を感じました。
切腹してからの「いかなればこそ勘平は・・・」のくどきは、
非常に切羽詰った緊迫感があって、
耳馴染みのよい七五調でありながら、現代的。
昨年のコクーン歌舞伎「三人吉三」でも
「月も朧に白魚の・・・」からのくだり、
お坊吉三(松也)とお嬢吉三(七之助)の掛け合いが
今までに見たこともないような疾走感にあふれていて、
それを経験した松也ならではだったのではないかと思いました。
また、
拾った五十両で武士に戻れると意気揚々と帰宅し、
「いいこと」を早くおかるに言ってしまいたい浮き浮きした表情と、
「ではあれは…」と気づいてからの悲嘆の落差が
くっきりとしていながらわざとらしさがなく、勘平の人となりに一貫性がありました。

児太郎
は古風さが忠臣蔵にうまくはまり、
古風さの中にも恋の景色が初々しいこと!
声もよく、間もよく、素敵なおかるでした!

「五十両~」と一言いって撃たれてしまう斧定九郎の巳之助も、
切れ味のよい演技と姿で存在感。
お顔もお父さん(坂東三津五郎)に似てきました~。

さらに!
不破数右衛門という、
普通なら大星由良之助(=大石内蔵助)級の重鎮が演ずる役を、
歌昇が声を低く絞って巧みに演じ、びっくり!
隣りの隼人と年齢差はあまりないのに、
弥五郎と数右衛門の格の差をちゃんと保っていました。

芝喜松、歌女之丞が脇をびしっと固めてくれたおかげもあって、
いい舞台となりました。

歌舞伎の未来は明るい!と思えた浅草新春歌舞伎でありました。
1/26まで。ぜひご覧ください!

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